付き合う瞬間から見届けていたとは言え。
今は帰ってしまったのっぺらぼうの芙美に、その恋人になった美作辰也はとても上機嫌で帰って行った。
座敷童子の真穂のように、界隈に居住しているらしく、いきなりだが芙美が連れて行くそうだ。
美兎は二人のラブラブっぷりに当てられて、少し感心してしまった。
まったくではないが、美兎の仕事も忙しかったし、また火坑とデートが出来ないでいた。
先日の突撃訪問は驚いたが、あれも嬉しかった。
そして、芙美達が帰ってしまった今。店には美兎と火坑だけ。
今日も梅酒のお湯割りで体を温めて、スッポンのスープと雑炊でお腹は満たされた。甘いものも、美作のお陰で満たされているが。火坑の仕事している様を見ると、酷く落ち着くのだ。
「美兎さん」
少し、見惚れていたら。火坑がこちらに振り返ってきた。
「はい?」
「今月も残り少ないですが。以前お話ししたお着物デートを覚えていますか?」
「覚えてます」
火坑と話すことは極力忘れないようにしている。
仕事は仕事。プライベートはプライベートだが、大事な大事な恋人との思い出は忘れないようにしているのだ。
美兎が頷くと、火坑は涼しい笑顔で口を開いた。
「でしたら、近いうちにしませんか? 名古屋でお着物デート」
「! したい、です!」
「よかったです。着物レンタルは、実は真穂さんが提案してくれたんですよ?」
「? 真穂ちゃんが?」
「はい。人化した時と然程変化がないので有れば、自分の着物を貸すと」
「わぁ!」
普段は子供の姿でも洋装なのに、やはり妖だから着物は持っているのだろう。
それなら、お言葉に甘えたかった。
「いつにしましょうか?」
「えっと……ちょっと待ってください」
スマホではなく、手帳を取り出して残り少ない三月の予定を見れば。ちょうど、今週末は二日とも休みになっていた。
それを伝えれば、火坑はにっこりと笑ってくれた。
「でしたら、真穂さんと確認をとってから決めましょうか? 僕も一張羅を出してこなくてはいけませんね?」
「火坑さんもお着物着られるんですか?」
「もちろんですとも。普段はこんな格好ですが、地獄で働いてた時も一応着物でした」
「えーと? 前世、でしたっけ?」
「猫には複数の魂。生き方のルートがありますからね? 道真様の飼い猫だった時を合わせてもまだ三つです」
「三つでもすごいですよ?」
「ふふ」
人間でも前世の記憶を持って生まれると言うこと自体あるかどうかわからないのに。
猫だからか、妖だからか、色々特殊かもしれない。
遠い遠い、火坑の生まれ育った時代。
当然無理だが、美兎はそこにはいない。
「……火坑さんのこと、もっと知りたい」
ぽつりと口に出したら、火坑にも聞こえていたのか目を丸くした。
「僕のことですか?」
「! あ、いえ! すみません、出過ぎたことを!?」
「……ふふ。いいえ、美兎さんのわがままは可愛らしいですから」
「……可愛いですか?」
「ええ。それなら、手始めに敬語をやめてみますか?」
「無理……です」
「ふふ」
ちょっとだけ。
ちょっとだけ、わがままになっていいのだろうか。
元彼には、ウザいだのなんだの言われたりもしたが。
比べとようもない素敵な猫人は、美兎の心のしこりを上手に取ってくれた。
なら、と美兎は手招きで火坑を呼んで。
初めて、猫の口にキスをしてみたのだった。
「!?」
「人間とは全然違いますね……?」
唇もあるようでない。ヒゲがチクチクするが少しくすぐったい。
ヘラヘラ笑っていると、火坑は瞬時に響也になった。
「……お返しですよ?」
と言った直後。
ちょっかいを出したのを後悔するくらい、濃い濃いキスをされてしまったのだった。
今は帰ってしまったのっぺらぼうの芙美に、その恋人になった美作辰也はとても上機嫌で帰って行った。
座敷童子の真穂のように、界隈に居住しているらしく、いきなりだが芙美が連れて行くそうだ。
美兎は二人のラブラブっぷりに当てられて、少し感心してしまった。
まったくではないが、美兎の仕事も忙しかったし、また火坑とデートが出来ないでいた。
先日の突撃訪問は驚いたが、あれも嬉しかった。
そして、芙美達が帰ってしまった今。店には美兎と火坑だけ。
今日も梅酒のお湯割りで体を温めて、スッポンのスープと雑炊でお腹は満たされた。甘いものも、美作のお陰で満たされているが。火坑の仕事している様を見ると、酷く落ち着くのだ。
「美兎さん」
少し、見惚れていたら。火坑がこちらに振り返ってきた。
「はい?」
「今月も残り少ないですが。以前お話ししたお着物デートを覚えていますか?」
「覚えてます」
火坑と話すことは極力忘れないようにしている。
仕事は仕事。プライベートはプライベートだが、大事な大事な恋人との思い出は忘れないようにしているのだ。
美兎が頷くと、火坑は涼しい笑顔で口を開いた。
「でしたら、近いうちにしませんか? 名古屋でお着物デート」
「! したい、です!」
「よかったです。着物レンタルは、実は真穂さんが提案してくれたんですよ?」
「? 真穂ちゃんが?」
「はい。人化した時と然程変化がないので有れば、自分の着物を貸すと」
「わぁ!」
普段は子供の姿でも洋装なのに、やはり妖だから着物は持っているのだろう。
それなら、お言葉に甘えたかった。
「いつにしましょうか?」
「えっと……ちょっと待ってください」
スマホではなく、手帳を取り出して残り少ない三月の予定を見れば。ちょうど、今週末は二日とも休みになっていた。
それを伝えれば、火坑はにっこりと笑ってくれた。
「でしたら、真穂さんと確認をとってから決めましょうか? 僕も一張羅を出してこなくてはいけませんね?」
「火坑さんもお着物着られるんですか?」
「もちろんですとも。普段はこんな格好ですが、地獄で働いてた時も一応着物でした」
「えーと? 前世、でしたっけ?」
「猫には複数の魂。生き方のルートがありますからね? 道真様の飼い猫だった時を合わせてもまだ三つです」
「三つでもすごいですよ?」
「ふふ」
人間でも前世の記憶を持って生まれると言うこと自体あるかどうかわからないのに。
猫だからか、妖だからか、色々特殊かもしれない。
遠い遠い、火坑の生まれ育った時代。
当然無理だが、美兎はそこにはいない。
「……火坑さんのこと、もっと知りたい」
ぽつりと口に出したら、火坑にも聞こえていたのか目を丸くした。
「僕のことですか?」
「! あ、いえ! すみません、出過ぎたことを!?」
「……ふふ。いいえ、美兎さんのわがままは可愛らしいですから」
「……可愛いですか?」
「ええ。それなら、手始めに敬語をやめてみますか?」
「無理……です」
「ふふ」
ちょっとだけ。
ちょっとだけ、わがままになっていいのだろうか。
元彼には、ウザいだのなんだの言われたりもしたが。
比べとようもない素敵な猫人は、美兎の心のしこりを上手に取ってくれた。
なら、と美兎は手招きで火坑を呼んで。
初めて、猫の口にキスをしてみたのだった。
「!?」
「人間とは全然違いますね……?」
唇もあるようでない。ヒゲがチクチクするが少しくすぐったい。
ヘラヘラ笑っていると、火坑は瞬時に響也になった。
「……お返しですよ?」
と言った直後。
ちょっかいを出したのを後悔するくらい、濃い濃いキスをされてしまったのだった。