ああ、楽しい、嬉しい。
情報屋としてのスキルを使えば、簡単に正体などわかったものの。
芙美は、まるで人間の少女のように心をときめかせていた。
人化していても、己の正体を知ったはずなのに。丁寧に応対してくれた彼に対して。どう言うわけか、心をときめかせてしまったのだ。
だから、芙美は情報屋としてのスキルをフル活用しなかった。出来なかったのだ。
人間じゃないし、のっぺらぼうだし、だいぶ生きてきた妖なのに。
そして今、その相手である美作辰也から『友達』にならないかと提案されて。嬉しくないわけがなかった。
加えて、楽庵の美味しい美味しいチョコを使った料理に舌鼓を打ち。少し酒に酔ってきたが今日くらいいいだろう。
嬉しい事尽くしなのだから。
「営業さんは大変ですね〜?」
酔いが回っているが、楽しいからいいだろうとうふふと笑うくらいだ。
「まあ。もう三年ですし、慣れましたよ? 芙美さんも情報屋って一人なんですか?」
「一人ですよ〜? 昔は組んでいた相手もいましたけど。それぞれ独立しましたしー?」
「へー?」
なんとなく、なんとなくではあるが。
もしかしたら、と言う希望があるかなと思っていたが。さすがは人間でも社会に揉まれて数年。芙美が期待していても、表面上は普通に酒を飲んでいた。
ちょっと残念に思ったが、まだまだ希望的観測でしかない。
今の芙美が人化で作っている顔に惚れているかもしれないなんて。
元は顔がない芙美でも、妖でもやはり恋愛関係はセンチメンタルなのである。
しかし、他に客はいても座敷席は個室に近いのである意味別空間。
ちょっと、いやだいぶドキドキしているわけである。
足先が当たるくらい狭い掘り炬燵なので、緊張が伝わってしまわないか、さらにドキドキしてしまうのだ。
「美作さんは〜? お仕事大変ですかー?」
「大変ですけど、やり甲斐はありますよ? 最近……あ、昼間一緒にいた野郎ですけど。風吹ってやつわかります? 一緒に仕事してるんですよ」
「! 風吹さん〜? 人化してまで、人間達に溶け込もうと頑張ってる火車ですねー?」
「そうそう。あいつが妖だってのは最近知ったんですけど。あいつ、向こうにいる湖沼さんの同期と付き合うことになって」
「それはいいことですね〜?」
実は、出会ったばかりの美作と付き合いたいと思っている芙美ではあるが。
まだまだ知り合ったばかり。
せっかく友達になれたのだから、少しずつ知っていこうと思う。
少しお酒を飲んでいると、濃厚なチョコの匂いが鼻をくすぐってきたのだ。
「お待たせし致しました。美兎さんからいただいた心の欠片で作った、『マシュマロトースト』です」
「おお!?」
「ふわぁ〜!?」
持ってきてもらったら、チョコの匂いもだがマシュマロが焦げた香ばしい砂糖の匂いも混じって。
ひとりにつき一枚と贅沢に用意されたそれは、すぐに食べたくなるくらい美味しそうだった。
薄く焦げたマシュマロ。その下には溶けたチョコ。
パンも香ばしく焼けていたので、絶対美味しいと確信出来た。
「あ、火坑さん。俺の心の欠片も」
「はい。お願いしますね?」
心の欠片。
妖が生きる糧とは別に、生命力にも繋がる美味な魂の欠片。
火坑がぽんぽんと彼の両手を叩けば。丸いタブレット型のチョコが詰まった袋が出てきたのだった。
「……チョコ?」
「お菓子作り用に使いやすいタイプですね? これでカフェモカでもお作りしましょうか?」
「とことん、チョコ尽くしっすね?」
「今日はバレンタインですしね?」
冷めないうちに、とトーストを勧められて。
芙美は口いっぱいに広がった、溶けたマシュマロとチョコの甘さに幸せを感じたのだった。
情報屋としてのスキルを使えば、簡単に正体などわかったものの。
芙美は、まるで人間の少女のように心をときめかせていた。
人化していても、己の正体を知ったはずなのに。丁寧に応対してくれた彼に対して。どう言うわけか、心をときめかせてしまったのだ。
だから、芙美は情報屋としてのスキルをフル活用しなかった。出来なかったのだ。
人間じゃないし、のっぺらぼうだし、だいぶ生きてきた妖なのに。
そして今、その相手である美作辰也から『友達』にならないかと提案されて。嬉しくないわけがなかった。
加えて、楽庵の美味しい美味しいチョコを使った料理に舌鼓を打ち。少し酒に酔ってきたが今日くらいいいだろう。
嬉しい事尽くしなのだから。
「営業さんは大変ですね〜?」
酔いが回っているが、楽しいからいいだろうとうふふと笑うくらいだ。
「まあ。もう三年ですし、慣れましたよ? 芙美さんも情報屋って一人なんですか?」
「一人ですよ〜? 昔は組んでいた相手もいましたけど。それぞれ独立しましたしー?」
「へー?」
なんとなく、なんとなくではあるが。
もしかしたら、と言う希望があるかなと思っていたが。さすがは人間でも社会に揉まれて数年。芙美が期待していても、表面上は普通に酒を飲んでいた。
ちょっと残念に思ったが、まだまだ希望的観測でしかない。
今の芙美が人化で作っている顔に惚れているかもしれないなんて。
元は顔がない芙美でも、妖でもやはり恋愛関係はセンチメンタルなのである。
しかし、他に客はいても座敷席は個室に近いのである意味別空間。
ちょっと、いやだいぶドキドキしているわけである。
足先が当たるくらい狭い掘り炬燵なので、緊張が伝わってしまわないか、さらにドキドキしてしまうのだ。
「美作さんは〜? お仕事大変ですかー?」
「大変ですけど、やり甲斐はありますよ? 最近……あ、昼間一緒にいた野郎ですけど。風吹ってやつわかります? 一緒に仕事してるんですよ」
「! 風吹さん〜? 人化してまで、人間達に溶け込もうと頑張ってる火車ですねー?」
「そうそう。あいつが妖だってのは最近知ったんですけど。あいつ、向こうにいる湖沼さんの同期と付き合うことになって」
「それはいいことですね〜?」
実は、出会ったばかりの美作と付き合いたいと思っている芙美ではあるが。
まだまだ知り合ったばかり。
せっかく友達になれたのだから、少しずつ知っていこうと思う。
少しお酒を飲んでいると、濃厚なチョコの匂いが鼻をくすぐってきたのだ。
「お待たせし致しました。美兎さんからいただいた心の欠片で作った、『マシュマロトースト』です」
「おお!?」
「ふわぁ〜!?」
持ってきてもらったら、チョコの匂いもだがマシュマロが焦げた香ばしい砂糖の匂いも混じって。
ひとりにつき一枚と贅沢に用意されたそれは、すぐに食べたくなるくらい美味しそうだった。
薄く焦げたマシュマロ。その下には溶けたチョコ。
パンも香ばしく焼けていたので、絶対美味しいと確信出来た。
「あ、火坑さん。俺の心の欠片も」
「はい。お願いしますね?」
心の欠片。
妖が生きる糧とは別に、生命力にも繋がる美味な魂の欠片。
火坑がぽんぽんと彼の両手を叩けば。丸いタブレット型のチョコが詰まった袋が出てきたのだった。
「……チョコ?」
「お菓子作り用に使いやすいタイプですね? これでカフェモカでもお作りしましょうか?」
「とことん、チョコ尽くしっすね?」
「今日はバレンタインですしね?」
冷めないうちに、とトーストを勧められて。
芙美は口いっぱいに広がった、溶けたマシュマロとチョコの甘さに幸せを感じたのだった。