まったく、わざとなのかそうじゃないのか。
風吹は送ることになった、想い人の人間の女性。田城真衣を背負いながらとりあえず、地下鉄の名城線に向かった。
他に荷物もあったし、抱き抱えるよりも背負う方がいいと思い。徐々に濃くなる人肉の匂いに耐えながら、まずは改札で駅員に掛け合い。
酔って寝てしまったので、支払い等を改札口で済ませてからホームに向かう。
地味に目立つが、仕方がないので視線は総無視。
匂いが濃くなっていくにつれて、風吹も気分が悪くなってきたが。役目をまず真っ当せねばと、なんとか我慢した。
植田までの乗り換えの間も。
比較的端が空いていたので、その席に下ろしてから休ませて。着いたら、また背負ってを繰り返して。
途中、気を遣ってくれた人間もいたので、スムーズに駅まで行けた。はるか昔もだが、争うだけの人間だけじゃないのは、風吹にとって嬉しく思えた。
だから、あの大戦で血肉の臭いがダメになっても。風吹は人間がすきなのだ。
食べる対象ではなく、交友する側として。
矛盾はしているが、ここ最近変化もあった。
田城と再会してからだが、少しだけ人肉の臭いに耐性が出来てきたのだ。
今日くらいの、ちょっとした混み具合だったら気分が悪くなくなった。きっかけが、ひょっとしたら彼女かもしれないと、そう思えるくらい。
だって今も、背負っているとは言え。密着しているのに、彼女の血肉には気分が悪くならない。むしろ、花のような良い香りがするのだ。シャンプーとかの匂いかもしれないが。
「……さて、と」
植田の駅に降りるのも久しぶりだったので、適当に地上の出口から出たが。田城の家はこのままだとどこかわからない。
同期の美作が言ったように、匂いをたどることも出来るが彼女を背負っているので、紛れてしまう。
なら、目立ちにくいこの時間なら妖術を使えるかもしれない。
「……導け、導け」
目を閉じて、意識を巡らせ。
紡いだ言の葉を頼りに、田城の家を探る。
すると、風吹の頭の中に地図が浮かび上がり。目を開ければ、赤い糸のようなものが道しるべをしてくれていた。
それに沿って、田城と荷物を落とさないように背負って、ゆっくりと歩き出した。
道は住宅街に向かう感じで、血肉の臭いがあまりしない。比較的住みやすそうだな、と思ったらそれらしきアパートの前に到着して。
部屋の前に着くと、いい加減田城を起こそうと声をかけた。
「田城さん。……田城さん、起きてください。着いたっスよ?」
「……んぅ? にゃ〜? 不動さぁん?」
「その不動です。家に着きましたよ?」
「あにぇ〜? 私ぃ、場所教えましたっけ??」
「湖沼さんに聞きました。部屋の鍵出してください。てか、立てます……?」
「えーとぉー」
眠いのか、酔いがまだ回っているのか、相変わらず可愛過ぎる舌ったらずな声だが。とりあえず、上着のポケットから鍵を出してくれたので、受け取ってからドアを開けた。
中は一人暮らしのワンルームで、綺麗に片付いていた。界隈に自宅がある風吹とは大違いだった。
「……じゃ、俺はここで」
「え〜〜、せっかく来たんですから。上がってくださいよぉ〜〜」
「田城さん、まだ酔ってます?」
「ひとりじゃさみしいんですぅ〜。不動さぁん、帰らないでぇ」
「……俺、男なのわかってます?」
さらに言うと人間でもないのだが、とは言えないので。
そこをグッと堪えていると、田城は玄関に座り込んでふにゃふにゃの笑顔になったのだ。
「知ってますぅ〜〜、不動さんはぁ、素敵な男の人ですもん!」
「……田城さん」
たしかに、酔って本音が出まくり、店でも告白のようなのをされてしまったが。
未だに酔ったままでも、本音を言ってくれるのだ。嬉しくないわけがない。けど、自分は人間じゃない。かつては屍肉を貪っていた妖と呼ばれる化け物だ。
それを知った上でも、受け入れてくれるかわからない。
だが、彼女の想いにも応えたい自分がいるのも嘘じゃない。
「不動さんが〜すぅき!」
「! 俺の正体、知ってもですか?」
「しょーたい?」
「…………俺、人間じゃないんです」
完全に人化を解かずに、目を猫目にさせて、猫耳を出してから田城と向き合った。
田城はポカンとしてたが、すぐにまたふにゃふにゃの笑顔になった。
「……猫しゃん?」
「……半分あってますけど。化け猫ですよ、火車って」
「……それが悪いことなんですか?」
「……え?」
もう一度田城に顔を向けると、彼女はふにゃふにゃどころか苦笑いをしているだけだった。おそらく、今ので正気に戻ったのかもしれない。
「……私は。不動さんが好きです。何者でも、いいんです」
完全に酔いが覚めてしまったらしく、風吹は背筋が凍るような感覚を得た。
けれど、田城はまだ言葉を続けてくれた。
「人間じゃなくても、なんでもいいです。それだけじゃ、ダメですか?」
「……化け物ですよ?」
「けど、不動さんは不動さんです」
そして、座ったままなのに風吹に抱きついてきたのだ。
間近に感じる、好きな人間の匂いに。血肉とは違う匂いで酔いそうになった。
「田城さん!?」
「なんだっていいんです。私は気にしません」
「……後悔、しないんですか?」
「絶対、と言い切れないのは申し訳ないけど。今は言えます。あなたが好きです」
「……俺も、です。真衣、さん」
風吹も生まれて初めて。生きている人間を抱きしめて、幸せな気持ちになれたのだった。
風吹は送ることになった、想い人の人間の女性。田城真衣を背負いながらとりあえず、地下鉄の名城線に向かった。
他に荷物もあったし、抱き抱えるよりも背負う方がいいと思い。徐々に濃くなる人肉の匂いに耐えながら、まずは改札で駅員に掛け合い。
酔って寝てしまったので、支払い等を改札口で済ませてからホームに向かう。
地味に目立つが、仕方がないので視線は総無視。
匂いが濃くなっていくにつれて、風吹も気分が悪くなってきたが。役目をまず真っ当せねばと、なんとか我慢した。
植田までの乗り換えの間も。
比較的端が空いていたので、その席に下ろしてから休ませて。着いたら、また背負ってを繰り返して。
途中、気を遣ってくれた人間もいたので、スムーズに駅まで行けた。はるか昔もだが、争うだけの人間だけじゃないのは、風吹にとって嬉しく思えた。
だから、あの大戦で血肉の臭いがダメになっても。風吹は人間がすきなのだ。
食べる対象ではなく、交友する側として。
矛盾はしているが、ここ最近変化もあった。
田城と再会してからだが、少しだけ人肉の臭いに耐性が出来てきたのだ。
今日くらいの、ちょっとした混み具合だったら気分が悪くなくなった。きっかけが、ひょっとしたら彼女かもしれないと、そう思えるくらい。
だって今も、背負っているとは言え。密着しているのに、彼女の血肉には気分が悪くならない。むしろ、花のような良い香りがするのだ。シャンプーとかの匂いかもしれないが。
「……さて、と」
植田の駅に降りるのも久しぶりだったので、適当に地上の出口から出たが。田城の家はこのままだとどこかわからない。
同期の美作が言ったように、匂いをたどることも出来るが彼女を背負っているので、紛れてしまう。
なら、目立ちにくいこの時間なら妖術を使えるかもしれない。
「……導け、導け」
目を閉じて、意識を巡らせ。
紡いだ言の葉を頼りに、田城の家を探る。
すると、風吹の頭の中に地図が浮かび上がり。目を開ければ、赤い糸のようなものが道しるべをしてくれていた。
それに沿って、田城と荷物を落とさないように背負って、ゆっくりと歩き出した。
道は住宅街に向かう感じで、血肉の臭いがあまりしない。比較的住みやすそうだな、と思ったらそれらしきアパートの前に到着して。
部屋の前に着くと、いい加減田城を起こそうと声をかけた。
「田城さん。……田城さん、起きてください。着いたっスよ?」
「……んぅ? にゃ〜? 不動さぁん?」
「その不動です。家に着きましたよ?」
「あにぇ〜? 私ぃ、場所教えましたっけ??」
「湖沼さんに聞きました。部屋の鍵出してください。てか、立てます……?」
「えーとぉー」
眠いのか、酔いがまだ回っているのか、相変わらず可愛過ぎる舌ったらずな声だが。とりあえず、上着のポケットから鍵を出してくれたので、受け取ってからドアを開けた。
中は一人暮らしのワンルームで、綺麗に片付いていた。界隈に自宅がある風吹とは大違いだった。
「……じゃ、俺はここで」
「え〜〜、せっかく来たんですから。上がってくださいよぉ〜〜」
「田城さん、まだ酔ってます?」
「ひとりじゃさみしいんですぅ〜。不動さぁん、帰らないでぇ」
「……俺、男なのわかってます?」
さらに言うと人間でもないのだが、とは言えないので。
そこをグッと堪えていると、田城は玄関に座り込んでふにゃふにゃの笑顔になったのだ。
「知ってますぅ〜〜、不動さんはぁ、素敵な男の人ですもん!」
「……田城さん」
たしかに、酔って本音が出まくり、店でも告白のようなのをされてしまったが。
未だに酔ったままでも、本音を言ってくれるのだ。嬉しくないわけがない。けど、自分は人間じゃない。かつては屍肉を貪っていた妖と呼ばれる化け物だ。
それを知った上でも、受け入れてくれるかわからない。
だが、彼女の想いにも応えたい自分がいるのも嘘じゃない。
「不動さんが〜すぅき!」
「! 俺の正体、知ってもですか?」
「しょーたい?」
「…………俺、人間じゃないんです」
完全に人化を解かずに、目を猫目にさせて、猫耳を出してから田城と向き合った。
田城はポカンとしてたが、すぐにまたふにゃふにゃの笑顔になった。
「……猫しゃん?」
「……半分あってますけど。化け猫ですよ、火車って」
「……それが悪いことなんですか?」
「……え?」
もう一度田城に顔を向けると、彼女はふにゃふにゃどころか苦笑いをしているだけだった。おそらく、今ので正気に戻ったのかもしれない。
「……私は。不動さんが好きです。何者でも、いいんです」
完全に酔いが覚めてしまったらしく、風吹は背筋が凍るような感覚を得た。
けれど、田城はまだ言葉を続けてくれた。
「人間じゃなくても、なんでもいいです。それだけじゃ、ダメですか?」
「……化け物ですよ?」
「けど、不動さんは不動さんです」
そして、座ったままなのに風吹に抱きついてきたのだ。
間近に感じる、好きな人間の匂いに。血肉とは違う匂いで酔いそうになった。
「田城さん!?」
「なんだっていいんです。私は気にしません」
「……後悔、しないんですか?」
「絶対、と言い切れないのは申し訳ないけど。今は言えます。あなたが好きです」
「……俺も、です。真衣、さん」
風吹も生まれて初めて。生きている人間を抱きしめて、幸せな気持ちになれたのだった。