バレンタイン間近、の飲み会。

 定時過ぎに上がることが出来た美兎(みう)は、同期の田城(たしろ)真衣(まい)に休憩室に連れて行かれたのだった。


「え、約束?」


 田城が、実は休日に不動(ふどう)(ゆう)こと火車(かしゃ)風吹(ふぶき)と再会していたことを聞かされた。


「その……デートってことじゃないんだけどぉ。不動さんが『大食い選手権』に出るから応援に来て欲しいって」


 これからまた会うのに、デレデレしてしまっている田城は年相応の恋する女性に見える。それがとても可愛らしく見えた。

 社内の、彼女を狙っている男性陣には申し訳ないが、ここまで風吹を好いているのなら本物だろう。

 ただし、この様子だとまだ彼が妖怪と言われる存在であることは知らないと思われる。

 言わないことが悪いわけではないのだが。出来れば、どちらも傷つかない方向になって欲しいのだ。美兎が火坑(かきょう)とのことで散々悩んだように。


「そっか。いいんじゃない?」
「……うん。この間会った日もぉ。デートだったのかな? デートだよね? 二人でご飯食べるってぇ!?」
「真衣ちゃんがそう思うなら、そうなんじゃない?」
「うーふーふ」


 とりあえず、若干気味の悪い笑顔は引っ込めてほしいが。

 今日は、美作(みまさか)おすすめのイタリアンレストランに連れて行ってくれるらしい。最初そのワードに、ろくろ首の盧翔(ろしょう)を思い浮かんだが、界隈どころか久屋大通(ひさやおおどおり)なので違うだろう。

 田城を連れて、待ち合わせ場所に行くと。既に美作ともこもこに着込んだ風吹が待っていたのだった。


「お待たせしました!」
「や! 俺達も今着いたとこ」
「……ども」
「こ、こんばんは!」
「!?」


 わかりやすい。実にわかりやすい。

 風吹は田城が挨拶すれば、すぐにニット帽とマフラーを外して顔を露わにさせた。その顔は真っ赤っかだった。


「なーに、なに? 不動、お前。こっちのお嬢さんと別でまた会ったのか?」
「う、うるさい!」
「へーへー。あ、俺こいつの同期で。湖沼(こぬま)さんとは飲み友の美作辰也(たつや)だよ」
「どーも。田城真衣です」
「その節は、こいつ助けてくれてありがとね? 今日は俺とこいつの奢りだから遠慮なく」
「いいんですか? 美作さん?」
「うんうん。湖沼さんも遠慮しなくていいから」
「あ、あの!」


 とここで、田城が風吹の前にひとつの紙袋を渡したのだった。


「? 俺、ですか?」
「これ良かったら、バレンタインプレゼントです!」
「え……い、んですか?」
「はい! 私達の先輩の彼氏さんの……お店のですけど」
「…………ありがとうございます」


 受け取った途端に、ふにゃっとした笑顔になるのだから田城に筒抜けだと思われるのに。田城も田城で、ふにゃっとした笑顔になるだけだった。


「……湖沼さん、湖沼さん。もうあいつらデキてるんじゃない?」
「両片想い状態ですね? ただ……」
「そだね。あいつ、妖だから」


 ほわんほわんした空気が漂う中、コソコソっと美兎と美作は話し合う。

 そして、やはりぶつかる壁をどう突破すべきか美作も悩んでいるようだった。


「……とりあえず。急ぐわけでもないですし。移動しませんか?」
「そうだね? おーい、お二人さん? 移動するぞ?」


 案内してくれたレストランは、表通りにあって。盧翔の店よりかはだいぶ居酒屋に近い外観だった。席順は、真衣の向かいに風吹が座るように。

 双方、顔はまだ赤かった。