栄に来るのも、随分と久しぶりだった。
湖沼海峰斗は、つい先日彼女となったばかりの。座敷童子である真穂と手を繋ぎながら、これまた久しぶりに使う名城線に乗っていた。
スタイリストとして、名古屋駅や伏見駅にはちょくちょく来るが、中区はあまり行かない。仕事休みは自宅で爆睡しているから、わざわざ栄や矢場町に来ることも減った。
だが、今日行くのはただの栄ではない。妹の美兎の彼氏でもある火坑もいるらしい、界隈と呼ばれている妖怪達の巣窟。
少し緊張はするが、これも真穂と本当の意味で結ばれるためだと気合を入れていたら。ホームに降りると、真穂からくすくすと笑われた。
「緊張し過ぎ」
「いやだって……真穂以外。かきょーさんはまだ見てないし。妖怪がウヨウヨしてるとこに行くって、最初はビビるって」
「ま、そーね? 真穂は見た目子供の妖怪だもの?」
「うん。真穂ねーちゃんだから、それは思った」
だから人間の姿に似せている妖はきっと少ないはず。途中、rougeという真穂が買ってきてくれたマカロン専門店で抹茶のマカロンを買って。
夕飯ついでに、火坑の営む楽庵に行こうと彼女が提案してくれたのだ。
「お、俺払うよ!」
「んー? ある意味タダだよ? 考えてもみて? 美兎が新人社会人だったのに、こう言う場所の小料理屋でそうしょっちゅう食事出来ると思う?」
「思わ……ないけど。なんか秘密でもあんの?」
「とりあえず、行こ行こ?」
真穂に手を引かれて、海峰斗は細い裏路地のような場所を歩かされた。細身ではあるが、普通の成人男性くらいの海峰斗の体格だと少しきつい。
真穂は難なく通れるが、角の角をいくつか曲がったら。錦の裏通りのような場所に出て、スナックやBAR。居酒屋に小料理屋などと飲食店やホスト・ホステスの雰囲気漂う店がたくさん見えた。
だが、違うのは真穂のように人間のように見えたり、狐とか爬虫類に見える妖怪が客とか店員でいた。
通り過ぎても襲いかかることはなく、むしろ真穂が先導で歩いていたら彼女に敬意を表する者ばかり。
大妖怪とは聞いていたが、やっぱりすごい妖怪なのだろう。
そして、彼女が立ち止まった先には猫と人のような不思議な妖怪が暖簾を入り口にかけていた。
「猫? 人?」
「まんま、猫人よ? 火坑!」
「え、あの人が!?」
美兎の恋人の正体。
横顔に面影は全くないが、綺麗な猫の顔としか思えない。
背丈は似ているが、とてもじゃないが響也と同一人物に見えなかった。それが、真穂が今日年齢を上げたと同じく、妖怪変化の成せる技かもしれない。
「おや、真穂さん?……ああ、海峰斗さん。この姿では初めまして」
「ど、ども……」
声はまんまだったので、一致させるのには少し時間がかかったが。
とりあえず、外は寒いので店に入らせてもらうことになった。
「はい。お土産」
真穂は席に着く前に、火坑にマカロンの袋を渡したのだった。
「これはこれはありがとうございます。……今日はあちらでご挨拶だったのでは?」
「ふふーん。海峰斗の界隈デビューも兼ねて、早めに切り上げてきたの! あと、こっちのあなたにも会わせたかったし」
「そうですか……。海峰斗さん、大丈夫ですか?」
「……まだ。頭ん中が整理出来てないだけ」
猫、人。
人、猫。
真穂以外の妖怪を、今日初めて見たので色々と情報整理が出来ていないのだ。
とりあえず、妹がこの姿で惚れたのはわからなくもないと思った。美形だからだ、猫の方が。
「ま、慣れよ慣れ。とりあえず、海峰斗何飲む? 大抵のお酒あるわよ?」
「え……けど。ほんとにタダ?」
「ああ。心の欠片のことですね?」
「……なにそれ?」
「海峰斗さん、両手を上に向けて僕の方に出してください」
「……こう?」
そして、肉球がない猫の手で軽くぽんぽんと叩かれると。一瞬光って、手のひらの上に、海峰斗が仕事道具で使うスタイリング用のハサミが出てきた。
「さらに、これを」
もう一度ぽんぽんと叩けば。出てきたのはラベルのない、コーヒーかコーラのペットボトルだった。
「あら、少し気泡があるからコーラ?」
「そのようですね? ふむ、コーラ煮でもしますか?」
「え……コーラって煮物に使えんの!?」
「砂糖を追加しないので、少しあっさりめに仕上がりますよ?」
「へー……てか、なんでハサミ? から、コーラが出てくんの??」
「心の欠片とは、人間や一部の妖の魂の欠片から取り出せる……我々妖の栄養分みたいなものですよ。僕の店の場合はそれで金銭がわりにしています。ちゃんと換金場所はあるので問題はありません」
「……へー?」
とてもじゃないが、それで店を切り盛りしていけるとは思わないが。妖怪は妖怪で色々事情があるのだろう。
コーラ煮が出来るまで、海峰斗はえぐい解体ショーついでに美味なるスッポン料理と生ビールを楽しんだのだった。
湖沼海峰斗は、つい先日彼女となったばかりの。座敷童子である真穂と手を繋ぎながら、これまた久しぶりに使う名城線に乗っていた。
スタイリストとして、名古屋駅や伏見駅にはちょくちょく来るが、中区はあまり行かない。仕事休みは自宅で爆睡しているから、わざわざ栄や矢場町に来ることも減った。
だが、今日行くのはただの栄ではない。妹の美兎の彼氏でもある火坑もいるらしい、界隈と呼ばれている妖怪達の巣窟。
少し緊張はするが、これも真穂と本当の意味で結ばれるためだと気合を入れていたら。ホームに降りると、真穂からくすくすと笑われた。
「緊張し過ぎ」
「いやだって……真穂以外。かきょーさんはまだ見てないし。妖怪がウヨウヨしてるとこに行くって、最初はビビるって」
「ま、そーね? 真穂は見た目子供の妖怪だもの?」
「うん。真穂ねーちゃんだから、それは思った」
だから人間の姿に似せている妖はきっと少ないはず。途中、rougeという真穂が買ってきてくれたマカロン専門店で抹茶のマカロンを買って。
夕飯ついでに、火坑の営む楽庵に行こうと彼女が提案してくれたのだ。
「お、俺払うよ!」
「んー? ある意味タダだよ? 考えてもみて? 美兎が新人社会人だったのに、こう言う場所の小料理屋でそうしょっちゅう食事出来ると思う?」
「思わ……ないけど。なんか秘密でもあんの?」
「とりあえず、行こ行こ?」
真穂に手を引かれて、海峰斗は細い裏路地のような場所を歩かされた。細身ではあるが、普通の成人男性くらいの海峰斗の体格だと少しきつい。
真穂は難なく通れるが、角の角をいくつか曲がったら。錦の裏通りのような場所に出て、スナックやBAR。居酒屋に小料理屋などと飲食店やホスト・ホステスの雰囲気漂う店がたくさん見えた。
だが、違うのは真穂のように人間のように見えたり、狐とか爬虫類に見える妖怪が客とか店員でいた。
通り過ぎても襲いかかることはなく、むしろ真穂が先導で歩いていたら彼女に敬意を表する者ばかり。
大妖怪とは聞いていたが、やっぱりすごい妖怪なのだろう。
そして、彼女が立ち止まった先には猫と人のような不思議な妖怪が暖簾を入り口にかけていた。
「猫? 人?」
「まんま、猫人よ? 火坑!」
「え、あの人が!?」
美兎の恋人の正体。
横顔に面影は全くないが、綺麗な猫の顔としか思えない。
背丈は似ているが、とてもじゃないが響也と同一人物に見えなかった。それが、真穂が今日年齢を上げたと同じく、妖怪変化の成せる技かもしれない。
「おや、真穂さん?……ああ、海峰斗さん。この姿では初めまして」
「ど、ども……」
声はまんまだったので、一致させるのには少し時間がかかったが。
とりあえず、外は寒いので店に入らせてもらうことになった。
「はい。お土産」
真穂は席に着く前に、火坑にマカロンの袋を渡したのだった。
「これはこれはありがとうございます。……今日はあちらでご挨拶だったのでは?」
「ふふーん。海峰斗の界隈デビューも兼ねて、早めに切り上げてきたの! あと、こっちのあなたにも会わせたかったし」
「そうですか……。海峰斗さん、大丈夫ですか?」
「……まだ。頭ん中が整理出来てないだけ」
猫、人。
人、猫。
真穂以外の妖怪を、今日初めて見たので色々と情報整理が出来ていないのだ。
とりあえず、妹がこの姿で惚れたのはわからなくもないと思った。美形だからだ、猫の方が。
「ま、慣れよ慣れ。とりあえず、海峰斗何飲む? 大抵のお酒あるわよ?」
「え……けど。ほんとにタダ?」
「ああ。心の欠片のことですね?」
「……なにそれ?」
「海峰斗さん、両手を上に向けて僕の方に出してください」
「……こう?」
そして、肉球がない猫の手で軽くぽんぽんと叩かれると。一瞬光って、手のひらの上に、海峰斗が仕事道具で使うスタイリング用のハサミが出てきた。
「さらに、これを」
もう一度ぽんぽんと叩けば。出てきたのはラベルのない、コーヒーかコーラのペットボトルだった。
「あら、少し気泡があるからコーラ?」
「そのようですね? ふむ、コーラ煮でもしますか?」
「え……コーラって煮物に使えんの!?」
「砂糖を追加しないので、少しあっさりめに仕上がりますよ?」
「へー……てか、なんでハサミ? から、コーラが出てくんの??」
「心の欠片とは、人間や一部の妖の魂の欠片から取り出せる……我々妖の栄養分みたいなものですよ。僕の店の場合はそれで金銭がわりにしています。ちゃんと換金場所はあるので問題はありません」
「……へー?」
とてもじゃないが、それで店を切り盛りしていけるとは思わないが。妖怪は妖怪で色々事情があるのだろう。
コーラ煮が出来るまで、海峰斗はえぐい解体ショーついでに美味なるスッポン料理と生ビールを楽しんだのだった。