辰也(たつや)が上機嫌になってきたところで、火坑(かきょう)の方からふぐ料理が出てきたのだが。


「火坑さん……これは??」
「しゅうまい? に見えるけど」
美作(みまさか)さん、正解です」


 細長い、綺麗なあしらいが美しい逸品。全体的見れば、たしかにしゅうまいには見える。だが、ふぐでしゅうまいが出来るとは驚きだった。


「…………下関(しものせき)だと家庭料理でも多いらしい」
不動(ふどう)、食ったことあんの?」
「…………出張先で何度か」
「ほー?」


 ふぐでしゅうまい。また新しい料理を知ることが出来た。美兎(みう)は定番になりつつある、自家製梅酒のお湯割りを頼むと。火坑から、とんとんと手を軽く叩かれた。


「ふぐ料理は洋風もあるんです。美兎さん、心の欠片をお願いしてもいいですか?」
「! はい!」


 いつも通りに、両手を差し出して火坑に出してもらうと。紙箱とは初めてで、そのパッケージには見覚えがあった。


「あら、バターってことはムニエル?」
真穂(まほ)さん、正解です。あと、しゅうまいの残りを揚げる予定です」
「お! 豪華!! 俺もなんかいります??」
「そうですね。……では、野菜を出しましょう」


 と、辰也から取り出したのはかぼちゃに、茄子にピーマン。何を作るのかと聞けば、天丼らしい。


「て……天丼!?」


 その単語に、風吹(ふぶき)の顔色が変わった。苦手ではなく、好物なのか鼻息が荒かったのだ。

 その様子に、辰也がくくくっと喉の奥で笑い出した。


「こいつ、出先だと天丼ばっか食うんだよ。俺以上にPCワークすっげぇのに、太んないのってやっぱり妖だから?」
「……あんまり関係はないが。人化だと最適な姿になるだけだ。本性にしばらく戻ってないから分からん」
「ほーん?」


 それなのに、美形。妖術という魔法はなんでもありだと思うしかない。とりあえず、しゅうまいを冷めないうちに頬張れば。

 ふぐだけでなく、まろやかな味わいの中にエビとかが隠れていた。


「美味しい!! エビしゅうまい好きだから思うんですけど、ふぐとも相性がいいんですね!!」
「……お粗末様です。少し不思議な味わいがするでしょう? マヨネーズになる前の『玉子の素』というのを混ぜ込んであるんです」
「たまご、の素??」
「なんっすか、それ?」
「酢の入っていない、卵をメインに使ったタレのようなものです。今は使ってしまったので、お見せ出来ませんが」
「へー?」
「……美味しい」


 蒸し物だけど、風吹の口に合ったのか美味しい美味しいと口にしながらあっという間に空にしてしまった。美兎も食べ終わると、次に美兎から取り出したバターでバター醤油のムニエルが一人ひとつ出てきた。


「尻尾以外の骨抜きはしてあるので、どうぞ」
「わー!」
「おー!」
「……綺麗」


 半身とは言え、贅沢な食べ方だ。洋風が合うのが気になるが、唐揚げでも美味しかったのだから、きっと美味しいはず。

 美兎は箸で少しほぐしてから口に入れた。

 甘辛い、濃厚な味わいのタレが少し固い白身魚に合わさって、なんとも言えない幸福感が体を包んだ。


「おいひー!」


 真穂はがっついていたが、理由が分からなくもない。お酒にも絶対合うだろうと、お湯割りと交互に食べたらさらに幸福の循環がやってきた。

 辰也達もだが、座敷にいるサンタの三田(みた)やかまいたち兄弟も貪るように食べていき。楽庵(らくあん)の中で幸福が浸透していったのだ。


「さあ、さらにジャンキーにいきますよ? お待ちかねのふぐ天丼です!」


 小ぶりではあるが、タレが染み込んだ天丼。

 それが一人ひとり差し出されて、お腹がさらに空くのを美兎は感じたのだった。