覚の子孫とは言え、今はほとんど人間と同じ。
恋人になった美兎は少々その道から離れかけているが、基本的にはまだ人間だ。
そして、親の前でもきちんと意見を言える彼女の姿に、火坑はまた惚れ直してしまった。
美兎はいったい、いくつの魅力を自分に見せてくれるのだろうか。それが楽しみで、いつもの料理を作る創作意欲も自然と湧いてくる。
もっともっと、彼女を喜ばせてやりたい。
人化を解かずに、界隈に戻り。明日からの営業に必要な仕込みをしようと店に行ったら。入り口で、ここにいるのはおかしな人物がしゃがんでいたのだ。
「……真穂さん?」
「……どーも」
座敷童子本来の、子供の姿ではなく。美兎に合わせてだいたい女子大生くらいの年代の人化だった。
今日は美兎の影の中で、守護として徹すると言っていたのにおかしい。彼女に何かあったと言う様子はないのだが、真穂本人の様子がおかしかった。
「どうされたんですか?」
「…………もう、相談に乗って!!?」
「は、はい??」
落ち込んでいたかと思えば、火坑が近づけばすがりつくように立ち上がった。元気がないわけではないようだが、何やら珍しく悩みを抱えてしまったらしい。
けれど、内容がわからないので。とりあえず店の中に入ってもらうことにした。
火坑は元の猫人に戻り、真穂はそのままでカウンターの卓の上に突っ伏したのだった。
酒が飲みたいかと聞けば、珍しく飲む気がないようで賄い用に作った冷たい蕎麦茶を出したら。
「……海峰斗にも会ったでしょ?」
彼女の口から出てきたのは、美兎ではなくその兄だった。
「ええ。今日初めてお会いしましたし」
「真穂は、初めてじゃないの」
「と言いますと?」
「真穂とかの座敷童子には。気まぐれで霊力の高い子供と遊ぶ習慣があるの。海峰斗は……みほは、真穂が遊んでた子供の一人だったの」
「そんなご縁が?」
「それで。今日美兎にくっついて、あんたと美兎と会ったじゃない? あの時に霊力で気づいてさ? みほが酔い潰れて眠ってる時に夢路に潜り込んだわけ」
「再会、ですか? それで、あなたのその様子が僕には分かりませんが」
「……られたの」
「はい?」
「美兎に話を持ちかけた時に、告られたの!!?」
真穂が、海峰斗に告白された。
それは、少し驚いたが。このままの真穂と海峰斗が並べば、それはそれは似合いの恋仲になるだろうと、勝手に考えてしまったが。
きっと、真穂は戸惑っているのだろう。
永き時代を生き続けている、真穂にとっては初めての経験かもしれないから。
「……真穂さんは、どう思ったんですか?」
つまみになってしまうだろうが、先日滝夜叉姫から取り出した心の欠片『いぶりがっこ』にクリームチーズを挟み、黒胡椒で化粧したものを差し出した。
真穂は最初食べる気はなかったが、少しして箸を持ってぽりぽりとかじり出した。
「美味しい。…………正直、嫌じゃないのが変なの。人間の子供と遊ぶだなんて、真穂には日常だったのに」
「けれど、美兎さんと出会ったことで。その日常も変わりましたしね?」
「そうだけど。その兄だからって理由じゃない……と思うわ。今日は飲み友達ならって言っといたけど。……時間が経ったら」
「気になり出したと?」
「…………もう、これ確定?」
「ふふ。僕が言っていいものでしょうかね?」
だから、海峰斗には火坑の正体はバラしたらしい。しかし、真穂に好意を抱いた時のように拒絶反応はなかったようだ。
であれば、海峰斗をこの店に連れてくる時の心配の種はなくなったと、火坑は正直ほっと出来た。
「あ〜んな、可愛い坊ちゃんが。空木の流れを汲んでいるからっていい男になり過ぎだわ! くぅ〜、なんか悔しい! 揚げ足取られた気分!!」
「ふふ。元気が出たようですね? 飲みますか?」
「そうしたいけど、もう行ってくる! お代置いとくわ!!」
相変わらず、決心がつくのが早い。
それか、火坑に仕事があるのを気遣ってか。
どちらにしても、彼女にもいい幸福が巡り合わせたのなら、喜ばしいことに変わりない。
姿を消して、代金代わりの品を見たら。
「……もらい過ぎですよ」
真穂の大事な髪飾り。紫の胡蝶型で、螺鈿が使われている高級品だ。妖達なら、手が伸びるほど欲しがるだろう。
「……とくれば。海峰斗さんとご来店の際の料金をこれでまかなうか」
それくらいしか出来ないので、火坑はその髪飾りを大事に漆塗りの棚に仕舞っておいた。
恋人になった美兎は少々その道から離れかけているが、基本的にはまだ人間だ。
そして、親の前でもきちんと意見を言える彼女の姿に、火坑はまた惚れ直してしまった。
美兎はいったい、いくつの魅力を自分に見せてくれるのだろうか。それが楽しみで、いつもの料理を作る創作意欲も自然と湧いてくる。
もっともっと、彼女を喜ばせてやりたい。
人化を解かずに、界隈に戻り。明日からの営業に必要な仕込みをしようと店に行ったら。入り口で、ここにいるのはおかしな人物がしゃがんでいたのだ。
「……真穂さん?」
「……どーも」
座敷童子本来の、子供の姿ではなく。美兎に合わせてだいたい女子大生くらいの年代の人化だった。
今日は美兎の影の中で、守護として徹すると言っていたのにおかしい。彼女に何かあったと言う様子はないのだが、真穂本人の様子がおかしかった。
「どうされたんですか?」
「…………もう、相談に乗って!!?」
「は、はい??」
落ち込んでいたかと思えば、火坑が近づけばすがりつくように立ち上がった。元気がないわけではないようだが、何やら珍しく悩みを抱えてしまったらしい。
けれど、内容がわからないので。とりあえず店の中に入ってもらうことにした。
火坑は元の猫人に戻り、真穂はそのままでカウンターの卓の上に突っ伏したのだった。
酒が飲みたいかと聞けば、珍しく飲む気がないようで賄い用に作った冷たい蕎麦茶を出したら。
「……海峰斗にも会ったでしょ?」
彼女の口から出てきたのは、美兎ではなくその兄だった。
「ええ。今日初めてお会いしましたし」
「真穂は、初めてじゃないの」
「と言いますと?」
「真穂とかの座敷童子には。気まぐれで霊力の高い子供と遊ぶ習慣があるの。海峰斗は……みほは、真穂が遊んでた子供の一人だったの」
「そんなご縁が?」
「それで。今日美兎にくっついて、あんたと美兎と会ったじゃない? あの時に霊力で気づいてさ? みほが酔い潰れて眠ってる時に夢路に潜り込んだわけ」
「再会、ですか? それで、あなたのその様子が僕には分かりませんが」
「……られたの」
「はい?」
「美兎に話を持ちかけた時に、告られたの!!?」
真穂が、海峰斗に告白された。
それは、少し驚いたが。このままの真穂と海峰斗が並べば、それはそれは似合いの恋仲になるだろうと、勝手に考えてしまったが。
きっと、真穂は戸惑っているのだろう。
永き時代を生き続けている、真穂にとっては初めての経験かもしれないから。
「……真穂さんは、どう思ったんですか?」
つまみになってしまうだろうが、先日滝夜叉姫から取り出した心の欠片『いぶりがっこ』にクリームチーズを挟み、黒胡椒で化粧したものを差し出した。
真穂は最初食べる気はなかったが、少しして箸を持ってぽりぽりとかじり出した。
「美味しい。…………正直、嫌じゃないのが変なの。人間の子供と遊ぶだなんて、真穂には日常だったのに」
「けれど、美兎さんと出会ったことで。その日常も変わりましたしね?」
「そうだけど。その兄だからって理由じゃない……と思うわ。今日は飲み友達ならって言っといたけど。……時間が経ったら」
「気になり出したと?」
「…………もう、これ確定?」
「ふふ。僕が言っていいものでしょうかね?」
だから、海峰斗には火坑の正体はバラしたらしい。しかし、真穂に好意を抱いた時のように拒絶反応はなかったようだ。
であれば、海峰斗をこの店に連れてくる時の心配の種はなくなったと、火坑は正直ほっと出来た。
「あ〜んな、可愛い坊ちゃんが。空木の流れを汲んでいるからっていい男になり過ぎだわ! くぅ〜、なんか悔しい! 揚げ足取られた気分!!」
「ふふ。元気が出たようですね? 飲みますか?」
「そうしたいけど、もう行ってくる! お代置いとくわ!!」
相変わらず、決心がつくのが早い。
それか、火坑に仕事があるのを気遣ってか。
どちらにしても、彼女にもいい幸福が巡り合わせたのなら、喜ばしいことに変わりない。
姿を消して、代金代わりの品を見たら。
「……もらい過ぎですよ」
真穂の大事な髪飾り。紫の胡蝶型で、螺鈿が使われている高級品だ。妖達なら、手が伸びるほど欲しがるだろう。
「……とくれば。海峰斗さんとご来店の際の料金をこれでまかなうか」
それくらいしか出来ないので、火坑はその髪飾りを大事に漆塗りの棚に仕舞っておいた。