ここは、錦町に接する妖との境界。
ヒトとも接する歓楽街の界隈に、ほんの少し接しているのだが。ヒトから入るには、ある程度の資質を持つ者でしか訪れるのは叶わず。
たとえばそう、妖が好む霊力があるとすれば。
元地獄の補佐官だった猫と人のような姿をしている店主の営む小料理屋、『楽庵』に辿りつけれるかもしれない。
あと少し、で香取響也が湖沼の実家に来ると言う時期も来たので。
そのついでと言うわけではないらしいが。火坑から、楽庵に来て欲しいと連絡があったのが木曜の昼。
特別急ぎの仕事もなかったので、返事をしたら可愛らしい招き猫のスタンプが返ってきた。
ニマニマしていると、頭に軽く温かいものが押し当てられたのだ。
「香取さんと?」
「沓木先輩!」
会社の先輩であり、同じように妖と交際している二年上の女性である沓木桂那。美兎に押し付けてきたのは甘いカフェオレの缶コーヒーだった。
受け取ると、まとめていない部分の髪を軽く撫でられた。
「なに? あの人って、LIMEだとどんな感じ?」
「うーん……普通、だと思いますけど」
「そうじゃなくて。きちんと文章で返ってくるとか。テンポとか」
「あ、返事は早いです」
「なら、いい男ね?」
自分用にはブラックコーヒーをあおった沓木の表情はすっきりとしていた。
彼女には火坑とのやり取りを見せてもいいと思い、スマホを沓木に見せたのだった。
すると、画面を見た直後に沓木は顔をしかめた。
「先輩??」
「……湖沼ちゃん、香取さんと付き合ってどのくらい?」
「え……っと、バレンタインくらいで三か月ですけど?」
「…………まあ、湖沼ちゃんだから納得出来なくないけど。いつまで敬語なのよ? 香取さんもだけど」
「え、え、え!?」
火坑にタメ口。
そんな大それたことは恐れ多くて出来ない。
出来ないので、ぶんぶんと首を振っていたら後ろから誰かに抱きつかれた。
「おっつかれー!! なーに話してんすか??」
正体は同僚の田城真衣だった。美兎はまだもらったカフェオレのプルタブを開ける前で良かったとほっと出来たが。
「お疲れ様」
「お疲れ、ね? 相変わらず元気ねー?」
「クタクタっすよ! 先輩と美兎っちは何してたんす?」
「湖沼ちゃんの恋愛事情」
「え、美兎っち破局!?」
「違う!! 縁起でもないこと言わないで!!」
「ちゃんと聞きなさい。付き合って三か月なのに、まだお互いに敬語なのよ?」
「んー? 人それぞれ言いますけど、どっちも??」
「う、うん」
「歳上だったっけ??」
「うん、28歳」
本当は二百歳以上で、人間じゃないのは田城には言えないけれども。
すると、田城は美兎から離れて腕を組んだのだった。
「うーん? あたしもあんまり歳上と付き合ったことないけど。美兎っちは彼氏さんとは出会ってどんくらい??」
「まだ……一年経ってないかな?」
「もう一年じゃん!? まあ、客と料理人の付き合いが長いと難しいけどぉ〜? でも、もういいじゃん? 美兎っちはもっと彼氏さんと距離縮めたくないの??」
「え、いや……その」
前の彼氏に比べれば、非常に距離は縮められているとは思うのだけれど。彼氏彼女としてのやり取りは、キスとハグ程度しか出来ないことは彼女には言えない。
沓木は事情もわかってくれているし、今はまだ助太刀はないのだが、もう少し踏み込んで本音を言っていいのだろうか。
たしかに、美兎からは手土産以外で火坑にアクションしたことがあんまりないからだ。
「ちなみに聞くけど、キスとハグは?」
「し……てる、けど」
「けど?」
「いつも……向こうから」
「ん〜〜、まあ。美兎っちうぶだし、自分からは行動しにくい??」
「うぶ……かなあ?」
「だよ」
「だわね??」
二人が声を揃えたので、美兎は首をすくめるしか出来なかった。
たしかに、美兎は仕事以外だと積極性が明後日の方向を向きがちだが。それが火坑との間に見えない薄い壁を作っているのであれば。
それは、きっと早いうちに取り除いた方がいいだろう。
「けど、来週末にうちの実家に来るんです」
「え!? もう婚約!?」
「違うから!?」
実際は違わないが、家族には妖に嫁ぐことは言えない。いくら、湖沼の祖先が覚の空木だからとは言え、その血がだいぶ薄まった今の世代はほぼ人間。
だが、美兎はその祖先から力を強められたために、人間界でもこの前の小豆洗いを筆頭に色々視え出してはいるが。
他は人間なので、多分大丈夫なはずだ。
「まあ。娘の彼氏を見たい親の方が多いもの? 私も連れてったし?」
「おー! で、先輩のご家族の反応は??」
「いい顔の彼氏ゲット! って、マジで言ったわ」
「前に写真見せてもらったっすけど、イケメンでしたしねー!!」
「まあね?」
話題が少し逸れて助かったが。助かったが、きっと実家でも兄や両親には突っ込まれる内容だろう。
今日楽庵に行く時にでも、火坑に提案しようと美兎は心に決めた。
ヒトとも接する歓楽街の界隈に、ほんの少し接しているのだが。ヒトから入るには、ある程度の資質を持つ者でしか訪れるのは叶わず。
たとえばそう、妖が好む霊力があるとすれば。
元地獄の補佐官だった猫と人のような姿をしている店主の営む小料理屋、『楽庵』に辿りつけれるかもしれない。
あと少し、で香取響也が湖沼の実家に来ると言う時期も来たので。
そのついでと言うわけではないらしいが。火坑から、楽庵に来て欲しいと連絡があったのが木曜の昼。
特別急ぎの仕事もなかったので、返事をしたら可愛らしい招き猫のスタンプが返ってきた。
ニマニマしていると、頭に軽く温かいものが押し当てられたのだ。
「香取さんと?」
「沓木先輩!」
会社の先輩であり、同じように妖と交際している二年上の女性である沓木桂那。美兎に押し付けてきたのは甘いカフェオレの缶コーヒーだった。
受け取ると、まとめていない部分の髪を軽く撫でられた。
「なに? あの人って、LIMEだとどんな感じ?」
「うーん……普通、だと思いますけど」
「そうじゃなくて。きちんと文章で返ってくるとか。テンポとか」
「あ、返事は早いです」
「なら、いい男ね?」
自分用にはブラックコーヒーをあおった沓木の表情はすっきりとしていた。
彼女には火坑とのやり取りを見せてもいいと思い、スマホを沓木に見せたのだった。
すると、画面を見た直後に沓木は顔をしかめた。
「先輩??」
「……湖沼ちゃん、香取さんと付き合ってどのくらい?」
「え……っと、バレンタインくらいで三か月ですけど?」
「…………まあ、湖沼ちゃんだから納得出来なくないけど。いつまで敬語なのよ? 香取さんもだけど」
「え、え、え!?」
火坑にタメ口。
そんな大それたことは恐れ多くて出来ない。
出来ないので、ぶんぶんと首を振っていたら後ろから誰かに抱きつかれた。
「おっつかれー!! なーに話してんすか??」
正体は同僚の田城真衣だった。美兎はまだもらったカフェオレのプルタブを開ける前で良かったとほっと出来たが。
「お疲れ様」
「お疲れ、ね? 相変わらず元気ねー?」
「クタクタっすよ! 先輩と美兎っちは何してたんす?」
「湖沼ちゃんの恋愛事情」
「え、美兎っち破局!?」
「違う!! 縁起でもないこと言わないで!!」
「ちゃんと聞きなさい。付き合って三か月なのに、まだお互いに敬語なのよ?」
「んー? 人それぞれ言いますけど、どっちも??」
「う、うん」
「歳上だったっけ??」
「うん、28歳」
本当は二百歳以上で、人間じゃないのは田城には言えないけれども。
すると、田城は美兎から離れて腕を組んだのだった。
「うーん? あたしもあんまり歳上と付き合ったことないけど。美兎っちは彼氏さんとは出会ってどんくらい??」
「まだ……一年経ってないかな?」
「もう一年じゃん!? まあ、客と料理人の付き合いが長いと難しいけどぉ〜? でも、もういいじゃん? 美兎っちはもっと彼氏さんと距離縮めたくないの??」
「え、いや……その」
前の彼氏に比べれば、非常に距離は縮められているとは思うのだけれど。彼氏彼女としてのやり取りは、キスとハグ程度しか出来ないことは彼女には言えない。
沓木は事情もわかってくれているし、今はまだ助太刀はないのだが、もう少し踏み込んで本音を言っていいのだろうか。
たしかに、美兎からは手土産以外で火坑にアクションしたことがあんまりないからだ。
「ちなみに聞くけど、キスとハグは?」
「し……てる、けど」
「けど?」
「いつも……向こうから」
「ん〜〜、まあ。美兎っちうぶだし、自分からは行動しにくい??」
「うぶ……かなあ?」
「だよ」
「だわね??」
二人が声を揃えたので、美兎は首をすくめるしか出来なかった。
たしかに、美兎は仕事以外だと積極性が明後日の方向を向きがちだが。それが火坑との間に見えない薄い壁を作っているのであれば。
それは、きっと早いうちに取り除いた方がいいだろう。
「けど、来週末にうちの実家に来るんです」
「え!? もう婚約!?」
「違うから!?」
実際は違わないが、家族には妖に嫁ぐことは言えない。いくら、湖沼の祖先が覚の空木だからとは言え、その血がだいぶ薄まった今の世代はほぼ人間。
だが、美兎はその祖先から力を強められたために、人間界でもこの前の小豆洗いを筆頭に色々視え出してはいるが。
他は人間なので、多分大丈夫なはずだ。
「まあ。娘の彼氏を見たい親の方が多いもの? 私も連れてったし?」
「おー! で、先輩のご家族の反応は??」
「いい顔の彼氏ゲット! って、マジで言ったわ」
「前に写真見せてもらったっすけど、イケメンでしたしねー!!」
「まあね?」
話題が少し逸れて助かったが。助かったが、きっと実家でも兄や両親には突っ込まれる内容だろう。
今日楽庵に行く時にでも、火坑に提案しようと美兎は心に決めた。