大晦日。
と言っても、妖に休日はあるようでないとされている。
現世の慣わしで年末年始と、百鬼夜行が行き交う盆や春先に比べたら、日本に取り入れられた面白おかしな行事を楽しむだけ。
かく言う、猫人の火坑も。今日は待ち望んでいたのだ。
ここ数年なら、年の締め括りとして特別営業をしていたのだが、今年は違う。
番うことを約束した、妖の子孫であった人間の湖沼美兎に彼女の先輩である沓木桂那とその恋仲である赤鬼の隆輝。
秋の烏天狗の翠雨達とは違うが、彼女が人間の組み合わせであるダブルデート第二弾だ。元旦の昼に初詣でのデートを約束しているので、火坑は楽しみだった。
猫人に輪廻転生してから、妖同士でも付き合いが何処となく希薄がちだったからだ。黒豹の霊夢に育ててもらい、楽庵を開くまで修行したのだが。
自分は自分、客は客とどこか線引きしていたのかもしれない。
それを変えてくれたのが、ほかでもない美兎だから。
「さて。ご自宅のお節は堪能されてるはずだから。僕は出来るだけ楽庵らしいメニューを……と言っても」
錦の界隈で小料理屋を営んでいる身としては。彼氏であれ、出来れば凝った料理を作りたい。それがお弁当でも。
なので、晦日の今日は店を思い切って閉めてから取り組んだのだが。何がいいのかサイトを見つつも悩みに悩んでしまっている。
「ん? これは!」
妖共有サイトである、料理などのレシピ集。そこに、女性が食いつきそうなメニューが載っていたのだった。
「ちょうど、いくらの醤油麹漬けが出来てるから! これは明日の朝に作れば鮮度も問題ない!」
なので、下準備をしてから美兎と年越しのメールをする時間まで自宅に戻ってから仮眠をして。
年越しまで、あと少し、となったら美兎から通話していいかとLIMEがあったので、承諾した。
『こんばんはー』
「こんばんは、ご実家はどうですか?」
『え……と、かきょ……響也さんのことを話したら、連れて来いと言われまして』
実家なので、火坑の偽名で呼んでくれるのも酷く愛らしく感じる。きっと、通話の向こうでは少し顔が赤いかもしれない。抱きしめたいが、距離が距離なので無理だが。
「わかりました。ご希望のご予定などは?」
『えっと……土日なら、くらいですけど』
「うーん。水藻さんや、空木さんとのご予定もありますしね? でしたら、月末近くにしませんか?」
『多分、大丈夫です! 私もまだ休日出勤になるくらい仕事は増えていないので』
「わかりました。明日……もう少しで日付も変わりますが。今年一年ありがとうございました。美兎さんと出会えて本当に良かったです」
『……私もです。響也さん』
「はい」
そして、お互いに笑い合ってから通話は終わり。
自宅から楽庵まで徒歩で移動してから、例のお弁当作りのために楽庵に向かう途中。
年越し直前で、夢を売ったり買ったりしていた夢喰いの宝来と遭遇した。
「お、火坑の旦那じゃねーか?」
「ご無沙汰しています。盛況のようですね?」
「おう! 真穂様も仕事されているからなあ? 俺っち達もうかうかしてらんねーぜ?」
「! 僕もひとつ吉夢を買いたいのですが。お代はとりあえずこれで」
「! 筋子じゃねーか!?」
「僕が漬けたので、お味は保証しますよ?」
「よしきた! 持ってけーい!」
翡翠に似た、ビー玉のような吉夢。
美兎には卯月のはじめ以来だろうが。恋人にどうしてもあげたいと思った火坑なのだった。
と言っても、妖に休日はあるようでないとされている。
現世の慣わしで年末年始と、百鬼夜行が行き交う盆や春先に比べたら、日本に取り入れられた面白おかしな行事を楽しむだけ。
かく言う、猫人の火坑も。今日は待ち望んでいたのだ。
ここ数年なら、年の締め括りとして特別営業をしていたのだが、今年は違う。
番うことを約束した、妖の子孫であった人間の湖沼美兎に彼女の先輩である沓木桂那とその恋仲である赤鬼の隆輝。
秋の烏天狗の翠雨達とは違うが、彼女が人間の組み合わせであるダブルデート第二弾だ。元旦の昼に初詣でのデートを約束しているので、火坑は楽しみだった。
猫人に輪廻転生してから、妖同士でも付き合いが何処となく希薄がちだったからだ。黒豹の霊夢に育ててもらい、楽庵を開くまで修行したのだが。
自分は自分、客は客とどこか線引きしていたのかもしれない。
それを変えてくれたのが、ほかでもない美兎だから。
「さて。ご自宅のお節は堪能されてるはずだから。僕は出来るだけ楽庵らしいメニューを……と言っても」
錦の界隈で小料理屋を営んでいる身としては。彼氏であれ、出来れば凝った料理を作りたい。それがお弁当でも。
なので、晦日の今日は店を思い切って閉めてから取り組んだのだが。何がいいのかサイトを見つつも悩みに悩んでしまっている。
「ん? これは!」
妖共有サイトである、料理などのレシピ集。そこに、女性が食いつきそうなメニューが載っていたのだった。
「ちょうど、いくらの醤油麹漬けが出来てるから! これは明日の朝に作れば鮮度も問題ない!」
なので、下準備をしてから美兎と年越しのメールをする時間まで自宅に戻ってから仮眠をして。
年越しまで、あと少し、となったら美兎から通話していいかとLIMEがあったので、承諾した。
『こんばんはー』
「こんばんは、ご実家はどうですか?」
『え……と、かきょ……響也さんのことを話したら、連れて来いと言われまして』
実家なので、火坑の偽名で呼んでくれるのも酷く愛らしく感じる。きっと、通話の向こうでは少し顔が赤いかもしれない。抱きしめたいが、距離が距離なので無理だが。
「わかりました。ご希望のご予定などは?」
『えっと……土日なら、くらいですけど』
「うーん。水藻さんや、空木さんとのご予定もありますしね? でしたら、月末近くにしませんか?」
『多分、大丈夫です! 私もまだ休日出勤になるくらい仕事は増えていないので』
「わかりました。明日……もう少しで日付も変わりますが。今年一年ありがとうございました。美兎さんと出会えて本当に良かったです」
『……私もです。響也さん』
「はい」
そして、お互いに笑い合ってから通話は終わり。
自宅から楽庵まで徒歩で移動してから、例のお弁当作りのために楽庵に向かう途中。
年越し直前で、夢を売ったり買ったりしていた夢喰いの宝来と遭遇した。
「お、火坑の旦那じゃねーか?」
「ご無沙汰しています。盛況のようですね?」
「おう! 真穂様も仕事されているからなあ? 俺っち達もうかうかしてらんねーぜ?」
「! 僕もひとつ吉夢を買いたいのですが。お代はとりあえずこれで」
「! 筋子じゃねーか!?」
「僕が漬けたので、お味は保証しますよ?」
「よしきた! 持ってけーい!」
翡翠に似た、ビー玉のような吉夢。
美兎には卯月のはじめ以来だろうが。恋人にどうしてもあげたいと思った火坑なのだった。