張り紙が一枚増えていた。
 男の子を探しているという内容のものだった。
 行方不明になったときに着ていたと思われる服装の説明書きと何かの行事の時に写したと思われる写真が添えられている。
 駅などでよく貼られているタイプのモノだった。
 僕はなんとなく、その張り紙を見つめる。
 こういう張り紙を見るといつもなら心が痛む。
 だって、どんなに穴が開くほど見つめたって、僕はその時のことを知らないから。有力な情報には賞金を差し上げますと言われても僕は何も知らない。
 僕にできることは何もないのだ。
 だから、僕はそんな張り紙を見ると気まずくなってすぐに目をそらしてしまう。その様子を見た知人にはまるで犯人みたいに見えるとからかわれたが、どうも居心地がよくないのだ。
 別にそのときそこにいて目撃した訳でもないし、ましてや被害者とは知り合いでもないのに妙に気まずい。これは偽善というやつなのだろうか。
 なのに、今回だけはその張り紙をじっくりと読んでいた。
 いつもその一枚の紙の中に簡単に書かれた情報は小説を読むよりも分かりづらくまったくその人物のことを想像できない。しかし、僕はこの張り紙の男の子のことをはっきりとそうぞうできた。
 そう、彼が行方不明の時に着ていた服もしっかりと覚えているし、男の子が笑うと右の頬にえくぼができること、かくれんぼが大好きなこと。ポケットにはいつもお気に入りのピンク色のゾウが書かれたハンカチがはいっていること。
 僕はそんなこまかなことまで知っている。
 知っているのだ。
 だけど、どうして僕は男の子のことをしっているのだろう?
 僕は一生懸命張り紙を見る。もっと思い出せるように。僕は一体、いつ男の子にであったのだろう?
 僕は必死にごちゃ混ぜになった頭の中を手で探るが、男の子の小さな手をつかむことはできなかった。
 こうなってくると僕はどうもちょっと人とずれている。
 この思い出せ無さが気持ち悪くてどうしようもない。そもそも原因はこの掲示板がこんなにごちゃごちゃしているせいだ。
 僕は気が付くと掲示板のなかの情報を勝手に僕の基準で張り替えていた。
 日付、色、大きさ。いろんなものがあるが、それを自分の中の基準に合わせて並び替えていく。
 自分の中のルールに照らし合わせて正しい手順で貼りなおしていく。
 すると少しずつ、頭の中がすうっと軽くなるような気がした。
 掲示板が自分のルール通りに秩序を保つようになったころ、僕は男の子のことはどうでもよくなっていた。

 僕がそこから気持ちよく立ち去ろうとしたとき、嬉しさで勢い余りすぎて一人の女性とぶつかってしまった。