シェアハウスの君と

 まあ、怖い夢を見ていたんですか?

 それはお気の毒に。

 ええ、大丈夫ですよ。大丈夫。

 みんなとっても、いい人ですから。

 さあ、あたたかいお茶です。よろしければ、召し上がって。

 え、殺人事件ですって。ずいぶん物騒な夢ですこと。

 ほら、大丈夫ですから。

 リラックスしてください。

 ああ、このカフス。素敵ですね。メノウですか。
 そう、思い出の品なんですね。
 思い出の品っていうとついつい大切にしまいがちになってしまいますけど、こうして日常の中に溶け込ませた方がずっと思い出といられますもの。素敵だと思います。

 ほら、お茶をもう一口いかがですか。あっ、このケーキも私が作ったんですよ。えっ、焼きたてではないって。そりゃあ、そうですよ。ケーキって焼きたてじゃなくて、ちょっとおちつかせてから食べる物ですもの。
 ほら、クリームとスポンジがしっとりとなじんでお茶によく合いますよ。

 連絡いただけて、とっても嬉しいです。

 私もこの年ですから。一日一日はあっという間に過ぎていきます。

 さて、さあ本題に入りましょうか。
 ええ、この家は確かに幽霊屋敷って噂がありますね。
 まったく失礼なものです。
 あれは私の弟の足音なのに。

 ええ、ずっと追いかけてくるんですよ。死んだ弟が。
 パタパタとずっと軽い足音をたてて、追いかけてくるのです。

 まあ、聞える人と聞こえない人がいるみたいなので、誰にとっても幽霊屋敷って訳ではありませんが。

 怖いですか?

 まあ、それはよかった。
 流石ですね。

 えっ、本当ですか?
 この家に入居したいんですか……そうですね、じゃあ一つテストを。

 準備するので、待っててくださいね。







 はい、おまたせしました。めしあがれ!

 お口にあいますか。
 あら、よかったです。

 お食事って大切ですものね。

 えっ、わたくしですか?

 作っているときに味見をしているのもありますし、この年になるとお肉はちょっと重くて。

 嫌ですね、齢をとるって。

 さて、問題です。
 この料理の名前を当ててみてください。
 ビーフシチュー?

 はずれです。

 正解はブフ・ブルギニョンです。
 ちょっと、海外の香がしてお洒落でしょう。
 まあ、ビーフシチューも横文字ですけど。なんていうかちょっと情緒がないというか。
 ブフ・ブルギニョンとは別物ですよ。
 今日のお肉は特別なものを使っています。たぶん、これから先一生味わえないでしょうから、ゆっくりと味わってくださいね。


 *
 サクラさんですか?

 大変申し訳ないのですが、そのような方は存じませんね。
 確かに容姿や特徴など私に似ているところもあるかもしれませんが……わたくしの名前ですか、カナエと申します。
 女性に名前を聞くなら、その前に気の利いた恋文の一つでもよこすのが礼儀だと思いません?
 失礼な人ですね。もちろん偽名ではありませんよ。
 ほら、わたくしの身分証明書ごらんになります。
 本当にあなたってしつれいなひとですね。
 ええ、サクラと名乗っていないかって、やれやれ、こんなに失礼な方だとはおもってもみませんでした。
 ここまでしたのに、こんな疑われるなんて。でも、いいでしょう。同居人を呼びましょう。ほら、マチコさん、イチ子さんこの失礼極まりない男に言ってやってくださいな。

 えっ、マチコさん、どうしてないているの?
 ほら、大丈夫だからね。ちょっとお休みしましょうね。
 だめよ、ちゃんと休んで。

 すみませんね。この年齢になるとどうも涙もろくて。あら、そうですね。女性はずっと涙もろいいきものですものね。

 でも、今日はこのくらいにしていただけますか。
 もう、疲れてしまっって。
 明日、またいらしてくださいな。

















 人の肉を食べにね。