シェアハウスの君と

「ねえ、マチコ。睡眠薬もってたら分けてくれない?」

 なんだか、あの日から気になって私も最近よく眠れない。
 お茶のマグカップを差し出しながら私はちょっとだけ甘えて語尾をあげてお願いする。思春期の女の子みたいなその喋り方はちょっとだけあほっぽいけれど、仕方ない。
 こうすると、マチコの姉御肌が発揮されることが多いのだ。ちょっとだけ頼りなくする。それって、誰かに助けてもらうのには必要なことだ。

 マチコはぽかんとした顔をして、
「睡眠薬、そんなのもってないよ?」
 って答える。
「え、じゃあ、睡眠導入剤は?」
「もってないって。てかどうしたのさ、いちごちゃん眠れてないの」
 マチコは心配そうにこちらの顔を覗き込む。マスクで顔が覆われているっていっても、目の下のクマは隠しきれない。私はあわてて、マスクをできるだけ上にあげてうつむく。
「うーん、ちょっと眠れていないんだよね……ちょっと新しい小物作っててさ」
 私はおどけた調子でいう。ヘッドドレスとかちょっとした小物は自作するものもある。お店で買うと高いのでちょっとした小物ならば、何とか自分の裁縫技術で作ることができるから。最近はロリータのための手作り本などもでてきて、ずっとやりやすい。
 刺繍とかも結構好きなのでささやかな楽しみだ。
 実はときどき、委託販売のお店に出してお小遣い稼ぎをしている。マチコはそれをしっているから、ちょっとだけあきれた顔をする。「ちゃんと、寝ないとだめだよ」お姉さんっぽくそんなことをいって私を諭すので、私は「はあい」とやっぱり舌っ足らずでちょっとだけ間抜けな返事をする。
 マチコがお姉さんっぽく私を諭して、ちょっとふてくされたような甘い返事を私がする。いつものお決まりのやりとりで大好きなはずなのにちょっとだけ、今日は違和感が残った。

 じゃあ、あの日は何だったんだろう。
 私は結構、思いっきりガラスをたたいていた。いつものマチコなら絶対起きてくるはずなのに。どうして、あの日だけ?

 私は子供の頃と変わらずその時の違和感を口に出すことができなかった。
 もし、口に出していたら私たちの未来は変わっていたかもしれないのに。
 ごめんね。マチコ。いまさら、謝ってもおそいよね。
 だけど、これだけは言わせて?
 私はマチコとあのやり取りをするもが好きだった。
 もっというと、私はマチコのこと大好きだったよ。