シェアハウスの君と


 あれから私は人を殺した時の話を他人にするようになった。
 もちろん、あいてが酔っ払っているときだけど。
 何だろう秘密が鉛になって胸にたまっていっても言葉にするとすうっと消えていく感覚の気持ちよさをしってしまったから、私は言葉に変えて吐き出さずにはいられない。
「なんだ、そんなこと」っていって、笑ってもらえるとそれだけですっごく楽になる。
 私はそういってもらいたくて仕方がない。
 だけれど、あまりそんな話ばかりして本気にされると困るから、普段から嘘をつくようにしている。
 ――ああ、あの有名人? 会ったことあるよ。
 ――ああ、あのお店、行ったことあるよ。オーナーと知り合いなの。
 ――あれ? うん、持っているよ。限定品。
 ちっちゃな嘘だけど、できるだけ嘘をつく。みんなその嘘を聞いてちやほやしてくれる。だけれど、その嘘は簡単にわかってしまう嘘だから、ときにはそれが嘘だといわれて、周りから冷たい目で見られることもある。

 だけれど、それが逆に心地がいいんだ。
 そんなタイミングで、「死にたい」とか「人を殺したことがあるの」とかいっても誰も信じてくれない。
 みんな、気を惹きたくて嘘をついていると思うだけだ。だからこそ、堂々と本当のことが話せる。

「私、人を殺したことがあるんだよね」
 深刻な顔をしてこんなセリフをいっても誰もが「ああ、またいってるよ」なんてあきれた顔をして聞き流してくれる。
 その瞬間が最高だ。ぞくぞくする。
 私は人を殺したことがあるというに、私は誰にも罰せられることがない。私だけが、いや、私とカナエさんだけが秘密を知っている。最高だ。
 嘘つきと言われても、私は本当のことを告白するための嘘をやめられない。

 だんだん、嘘をつくことだけでも楽しくなっていく。
 ああ、嘘ってどうしてこんなに甘美なんだろう。
 指先までリンゴ酒に浸かってるみたいに、あまくシュワシュワとしびれる。ああ、もちろん甘いリンゴ酒のおともにはクリームブリュレがいいなぁ。バニラビーンズの黒い粒がちりばめられた濃いクリームを甘いお酒で流し込みたい。