シェアハウスの君と


「ねえ、秘密を教えて? 友情の証に」

 カナエさんがちょっとだけ首をかしげてこちらを覗き込む。
 私は彼女から目を離すことができない。
 毎日ちゃんと手入れをされた髪はつやつやと輝いていて、思わず手を伸ばしたくなる。シャンプーのCMをみているみたい。豊かな黒髪はとてもきれいだ。きっと、メイソンピアソンのヘアブラシで毎日百回ブラッシングをしているおかげだろうか。天然のものでできたそれは本物で彼女の輝きにふさわしかった。
 本当は私も海外の小説を読んで憧れていたけれど約2万円もすると知って断念した。お洋服なら可愛いことがみんなにわかるから2万円って普通に買っちゃうけれど、ヘアブラシは可愛くない。まして、メイソンピアソンのそれはいかにも正統派というか昔っぽいデザイン。それよりも、可愛いお洋服を買いたくなってしまう。だって、可愛いお洋服を着られるのっていまだけじゃない。ずっと、我慢してきたし、人生で今ほどピンク色が似合う時期ってないと思うの。だから、私は全力で可愛いを味わいたい。
 ならば、絶対お洋服が勝ちだ。そんな私は二千円のタンクルティーザで手を打つのだ。私の頑固な癖毛もあっというまにさらさらに梳かしてくれるしなんの問題もない。
 メイソンピアソンは本物のイノシシの毛を使っているから、濡らしちゃだめだし、ヘアスプレーも使っちゃダメ。本物ってそれを手に入れるのにもそれを使うのにも結構根性が必要でしんどい。
 カナエさんみたいに本物を使えるって素敵だし憧れるけど、私にはまだはやい。私はこんなとき潔くあきらめるのだ。お洋服だってそうだ。真冬に着たいと思えば、夏向きのお洋服だって根性で着るけれど、どんなに寒く歯がガチガチとなっても、次の日に熱を出して寝込もうとも構わない。だけれど、どんなに素敵でずっと素敵だなあ、買いたいなあ、手に入れたいなあって思っていてもどうしても着ていて違和感があるお洋服もある。そんなときはあきらめる。それと一緒だ。私には、今はまだカナエさんのように丁寧で本物志向な暮らしは早いのだ。
 いつかそんな日が来るかもわからないけれど、私は今の私をつきすすむしかないかなあって思っているところが自分でも自分と折り合いってやつをうまくつけられているような気がする。

 カナエさんの魅力って本物ってことかもしれない。
 そんな風に思う今日この頃なのだ。