シェアハウスの君と

 視界の端を真っ黒な虫が移動する。
 あたしは監視されている。
 あの虫は小型のロボットであたしのことをいつだって見ているのだ。
 目の部分は小さなカメラであたしの決定的な瞬間を狙っている。
 センセーショナルなシャッターチャンスを狙っているのだ。
 殺しても殺しても、気が付くと視界の隅を横切るのだ。殺し方は簡単だ。じっと見つめること。じいっと見つめているといつの間にか透明になって消える。

 一匹しかいないときはこうやって簡単に殺せるから奴らに見られている心配はない。
 だけど、時々たくさん飛んでいるときは無理だ。
 一匹ずつみつめても、どんどん、新しい虫が湧き出てくる。
 真っ白な光であたしの世界は色を失っていく。
 眩しくて熱い光が大量にあてられて、あたしは一瞬で焼き尽くされていく。
 昔の人は写真をとられると魂を抜かれるとおもった理由が分かる。
 写真をとられればとられるほど、現実にいるあたしの存在はすり減って薄くなっていくみたいだ。
 真っ白な光に燃やされていると、そこから、同じくらい白い仮面の男が現れる。
 白い仮面の男たちはあたしを取り囲み、今度は大きな古いカメラであたしの写真を撮り始める。

 気が付くとあたしの服はフラッシュの光で焼き尽くされていて、あたしは一糸まとわぬ姿になっている。
 生まれたままの姿でいることが恥ずかしくてあたしは部屋を逃げ回る。

 家具の影に隠れても虫がいて、仮面の男はどんどん近づいてくる。
 眩しいくらい明るいのに怖くてしかたがない。
 気が付くとあたしはベッドの上に追い詰められている。
 仮面の男はベッドに上がってこないけど、たくさんの写真を撮り続ける。
 天井には何匹もの虫が這いまわりあたしの写真をとっていく。
 真っ赤な唇。死にそうな白いはだ。淡い色の髪。さみしい薬指。
 虫たちが映した写真はあたしの細切れの姿だ。
 その姿がシーツをスクリーン代わりにして映し出される。
 逃げられない。。
 あたしは必死でベッドからシーツをはがし、自分に巻き付ける。
 なんで、なんで、なんでか、シーツをはがしたベッドは血に染まっている。真っ赤な血に染まったそれは強い鉄の臭いがする。
 あたしがその赤さにおびえているとよりたくさんのフラッシュがたかれる。
 瞼の裏には夕焼けみたいなオレンジっぽい赤が見える。
 こんなときなのに、白いシーツを被ったあたしの姿は少し花嫁っぽいんだろうななんてことが浮かぶ。

 真っ黒な虫の大群が天井にアインシュタインの顔を描く。

 アインシュタインの顔がぼやけていく。すると、不思議なことにそれはあたしにとって特別なあの人の顔に変わった。