シェアハウスの君と

 シャワーを浴びると、部屋の床に赤い色が溶けだして広がっていく。
 夕焼けみたいな甘くてとろんとした赤ではなく、古いものから溶けだした錆の赤。
 いやなにおいが鼻をつく。
 そういえば小さな頃、鉄棒とか大嫌いだった。
 あの、色んな子供の汗が滲んで本物の血よりも濃く気持ちの悪い匂いがした。
 夜のうち、外の空気にさらされてひんやりとして清潔になっているはずなのに、練習しているうちにどんどん熱くて脈打っているような感じがする。無機質な鉄のはずなのに、いつのまにかそれはおばけとして子供たちを狙っている。
 子供たちの命を狙っている。
 学校の一部だったはずのそれは、いつの間にか息をひそめてあたしたちのすぐそばにいる。
 学校が終わって大人たちの目がなくなった校庭でそれはじいっとあたしたちを見つめている。
 夢中になって走り回っているあたしたちがふと消えてしまってもおかしくないくらい、ぽっかりと真っ暗な闇が口を開けている。
 真っ赤な夕日でいろんなものが眩しく輝いているとき、闇はそのすぐ後ろにぽっかりと開いている。
 ときどき、あたしもその闇に飲み込まれてしまうんじゃないかと思うことがあった。
 鉄棒が得意なあの子はよく夕日の落ちる時間になると、鉄棒の上に腰掛けて落ちていく様子を眺めていた。
 そういえば、あの子が死んだ日あの子はいつもと違って鉄棒でくるくると回り続けていた。
 あの子がいなくなったおかげであたしは学芸会でいなくても同じ石ころの役からお姫様の役になれたのだけれど。あの日はいつもより鉄の臭いが強かった。
 鉄の臭いを嗅ぐと今でも怖い。
 何か悪い事が起きるんじゃないかと思ってしまう。


 あたしはいつもよりシャワーを長く浴び、いつもよりたくさんの石鹸を使ってきれいにした。

 淡い色の床に、錆の色が残らないように入念に床も掃除した。
 闇に飲み込まれないように、あたしは必死で
 気が付くと美味しそうな香りが漂ってくる。

「おはよう。ごはんだよ」

 気が付くと外は明るくて、信じられないくらい清潔で冷たい風が吹いていた。