シェアハウスの君と

「ねえ、こういう時はためらっちゃダメなんだよ?」
 彼女は銀色のナイフを手に微笑む。
 彼女が持つとただのカトラリーもとびっきりの映画の小道具のように輝く。
 彼女がもったナイフは輝き、世界の運命を握っているように見える。

 あたしがぐちゃぐちゃに崩してしまった、赤と白とクリーム色の塊をみて彼女はちょっとだけ困ったような顔をする。「仕方ないね」といったあと、あたしの目の前にあった塊を処分する。そして、新しいものを用意してくれた。
 今度はしっかりと彼女の真似をして、ナイフをいれる。
 崩れてぐちゃぐちゃの果実があふれ出すんじゃないかとさっきはためらっていたが、今回は何も考えずに思い切ってナイフをいれる。すると余計なことを考えているときとちがって不思議なくらいナイフは刃物としての役割を果たして、思った通りにきれいに切れていた。
 ちょっとだけ、紅い汁が流れているが全く問題がない程度だ。
 きったことによってしっかりと層が見える。肌色に、淡い脂肪たっぷりの層、それから真っ赤な果実そして、また脂肪に、肌色。
 あれだけ、固いのにぐずぐずに崩れていたものが、思い通りになるのは何とも愉快だった。
 彼女は淡々と切り分けていく。
 あたしも彼女に負けないように必死でナイフを振るう。

 ときどき、集中力を切らして、紅い果実をつぶし、真っ赤な汁が飛び散ることもあったがもう気にならない。

 お茶の時間が終わるころ、あたしたちはあまりに疲れてその日は夕食を食べることができなかった。