ああ、どうしようか。
また、廊下をパタパタという足音が通り過ぎる。
まったく、この家はどうしてこんなに音が響くのだろう。
人間って重い。
実際の質量もそうだし、存在が重いのだ。
現代社会において存在とは情報だ。
見た目から分かる、性別や年齢。
たとえば、目の前の死体ならば、
まず男性の死体である。
しかも年老いている。
冴えないグリーンのセータを着ている。
ひげはきちんとそられている。
左手の薬指に光るものはない。
なんていうのがぱっとみて得られる情報。
さらに、この死体の持ち物をみればもっと多くの情報が得られるだろう。
年齢や名前に住所。現代では個人情報として重視される情報がちょっとした持ち物にすべて詰め込まれている。
もっている電子機器を確認すれば、さらに彼の趣味嗜好までも知ることができるだろう。馬鹿みたいな女の趣味も。
まあ、女の趣味なんて顔を見ただけで分かる。
この男は生前、あたしを初めて見たとき見下した目で見ていた。驚きの中にうまく紛れ込ませていたつもりだろうけど、見られている方は分かるのだ。
あの表情はあたしを見下していた。
臆病なくせに、いや、臆病だからこそ一瞬であたしの生活に気づきあたしを見下したのだ。弱いものほど、弱者と強者に敏感だ。
ほら、よくさ、学校時代もそうじゃなかった?
女の子の中で最初なんとなく仲良くしているのにいつの間にかいなくなって、人気者グループと仲良くしている子。
教室の中で一番強い子を見抜いて、その子には召使のように使える。そして、教室の中で一番立場の弱い子を見つけ出して、その子をストレスのはけ口としていじめる。で、残りの女の子は・・・・・・そうね、自分より強ければ仲良くして、自分より弱ければ自分が一番強いコにするように使えることを無言の圧力で迫る。
ああいう人間のせいで、いじめはなくならないのだ。
意外なもので一番強い女の子は他の子、特に下々になんて興味がないのだ。自分の前に開けている景色だけが世界で、教室の隅にいる女の子が何をしていても彼女には関係ない。
教室の隅にいる女の子の言動をいちいち注目して文句をつけ、奴隷のような身分を作るのは、ああいう本当に弱くてずるい人間だけだ。
子供の頃は、女に生まれたばかりにこんな窮屈な檻に入れられていて不公平だと感じていた。男の子たちのように自由にのびのびと駆け回って遊び、カラッとした気持ちのいい熱い友情の世界に生まれたかったとよく後悔した。
もし、生まれ変わるなら男がいいと思っていたくらい。
男に生まれればきっと今ほど理不尽なこともないと思った。
女の子として生きるのは大変なのだ。
他の女の子より自由を求めるあたしはよく、暗黙のルールという透明な壁にぶち当たり擦り傷や青あざが絶えなかった。
普通の女の子なら、ちょっと壁に気づくだけで済むのに、他の女の子より速く走れて、好奇心旺盛なあたしは男の子と同じように走り回って自分だけ壁にぶつかって初めてルールに気づくのだ。
男の子たちと外を駆け回っている瞬間が一番自由だった。
湿った土の草の匂いが懐かしい。
地面を蹴って、風を感じて、とても自由だった。
世界は広くてどこまでも走っていけるような気がした。
だけど、ある年ごろ、そう、さっきいったみたいなずるい子があらわれるころからあたしの世界には壁ができていた。
世界はどこまでも広がっていて、それをすべて見てみたいと思っていたのに。
あたしの世界は成長すればするほど狭くなる。
伸びた身長は世界の先を微かに見せるだけで、あたしに壁を越えさせることもできない。
あたしはちょっとだけ見えるようになった世界の先をただ眺めて、社会に決められた檻の中で飼われつづけることしかできなかった。
生きづらい、いや、あたしはなんのために生きているのだろうってずっと感じていた。
また、廊下をパタパタという足音が通り過ぎる。
まったく、この家はどうしてこんなに音が響くのだろう。
人間って重い。
実際の質量もそうだし、存在が重いのだ。
現代社会において存在とは情報だ。
見た目から分かる、性別や年齢。
たとえば、目の前の死体ならば、
まず男性の死体である。
しかも年老いている。
冴えないグリーンのセータを着ている。
ひげはきちんとそられている。
左手の薬指に光るものはない。
なんていうのがぱっとみて得られる情報。
さらに、この死体の持ち物をみればもっと多くの情報が得られるだろう。
年齢や名前に住所。現代では個人情報として重視される情報がちょっとした持ち物にすべて詰め込まれている。
もっている電子機器を確認すれば、さらに彼の趣味嗜好までも知ることができるだろう。馬鹿みたいな女の趣味も。
まあ、女の趣味なんて顔を見ただけで分かる。
この男は生前、あたしを初めて見たとき見下した目で見ていた。驚きの中にうまく紛れ込ませていたつもりだろうけど、見られている方は分かるのだ。
あの表情はあたしを見下していた。
臆病なくせに、いや、臆病だからこそ一瞬であたしの生活に気づきあたしを見下したのだ。弱いものほど、弱者と強者に敏感だ。
ほら、よくさ、学校時代もそうじゃなかった?
女の子の中で最初なんとなく仲良くしているのにいつの間にかいなくなって、人気者グループと仲良くしている子。
教室の中で一番強い子を見抜いて、その子には召使のように使える。そして、教室の中で一番立場の弱い子を見つけ出して、その子をストレスのはけ口としていじめる。で、残りの女の子は・・・・・・そうね、自分より強ければ仲良くして、自分より弱ければ自分が一番強いコにするように使えることを無言の圧力で迫る。
ああいう人間のせいで、いじめはなくならないのだ。
意外なもので一番強い女の子は他の子、特に下々になんて興味がないのだ。自分の前に開けている景色だけが世界で、教室の隅にいる女の子が何をしていても彼女には関係ない。
教室の隅にいる女の子の言動をいちいち注目して文句をつけ、奴隷のような身分を作るのは、ああいう本当に弱くてずるい人間だけだ。
子供の頃は、女に生まれたばかりにこんな窮屈な檻に入れられていて不公平だと感じていた。男の子たちのように自由にのびのびと駆け回って遊び、カラッとした気持ちのいい熱い友情の世界に生まれたかったとよく後悔した。
もし、生まれ変わるなら男がいいと思っていたくらい。
男に生まれればきっと今ほど理不尽なこともないと思った。
女の子として生きるのは大変なのだ。
他の女の子より自由を求めるあたしはよく、暗黙のルールという透明な壁にぶち当たり擦り傷や青あざが絶えなかった。
普通の女の子なら、ちょっと壁に気づくだけで済むのに、他の女の子より速く走れて、好奇心旺盛なあたしは男の子と同じように走り回って自分だけ壁にぶつかって初めてルールに気づくのだ。
男の子たちと外を駆け回っている瞬間が一番自由だった。
湿った土の草の匂いが懐かしい。
地面を蹴って、風を感じて、とても自由だった。
世界は広くてどこまでも走っていけるような気がした。
だけど、ある年ごろ、そう、さっきいったみたいなずるい子があらわれるころからあたしの世界には壁ができていた。
世界はどこまでも広がっていて、それをすべて見てみたいと思っていたのに。
あたしの世界は成長すればするほど狭くなる。
伸びた身長は世界の先を微かに見せるだけで、あたしに壁を越えさせることもできない。
あたしはちょっとだけ見えるようになった世界の先をただ眺めて、社会に決められた檻の中で飼われつづけることしかできなかった。
生きづらい、いや、あたしはなんのために生きているのだろうってずっと感じていた。
