シェアハウスの君と

 冷凍庫を開けると氷がなかった。
「ねえ、ダイヤ氷買ってきてくれない」
 あたしはパタパタという足音を遠くに聞く。
 ああ、そうだ。女の子にはダイヤモンドが必要なのだ。ずっとそばにいてくれる親友が女の子には必要なのだ。
 男たちは、どんなに愛の言葉をささやいても通り過ぎていくだけだ。
 どんなに熱くても彼らは決してその場に残らない。永遠という甘い言葉をささやいてもいつかは消えて居なくなってしまう。
 でも、親友は違う。ずっと同じ姿のまま変わらずに、キラキラと輝き続ける。
 たとえ喧嘩をしたとしても、それは男女のように一生消え去るものではない。
 キラキラと輝いてずっとそばにいてくれる。時々その煌めきの中には自分の姿も映し出されることもある。美しい光の中で輝くあたしはやっぱり輝いていて特別な存在のように思える。
 あたしを価値のある人間として輝かせてくれる。
 男たちが通りすぎて、どんなに惨めであっても親友たちがあたしをまた輝かせてくれる。
 永遠のように思えるつらい時間であってもずっとそばにいてくれる。
 女の子が女の子が生きていくにはダイヤモンドが欠かせない。

 だけど、あたしはまだダイヤモンドを持っていない。

 キラキラと輝く永遠の時間を手に入れられていないのだ。
 だから、あたしは男たちが通りすぎるたび汚れてしまう。
 毎日、毎日、毎日、あたしは必死でシャワーでその汚れを洗い流して化粧をする。色んなクリームや色を重ねていく。
 グリーンのクリームを塗って、その上から別の肌色を重ねる。目には、絵の具のパレットなみにいろんな色が乗せられたケースから何色もとりだして、グラデーションを作る。睫毛だって、いくつもの繊維を重ねられて作られる。そうだ、もちろん頬を幸せそうな薔薇色にするのも忘れない。
 そして、一番忘れてはいけないのがアイライン。濃くハッキリと猫のように吊り上げる。とっても、魅力的に見えるし、あたしは弱い人間じゃありませんと主張してくれる。
 出来上がったあたしを鏡を通して見つめると、知らないあたしがいる。
 一つ一つのパーツは問題なく仕上がっていて美しいけど、すべてを並べてみるとなんとなく違和感がある。整形をした人みたい。なんとなく、人工的で違和感がある。
 どこが変とはいえないけど、なんとなく変。普通じゃない。
 違和感の原因を探し続けると見つからない。それはじっと観察して、違和感の原因を探求すれば探求するほど分からなくなり恐怖に変わっていく。
 整形した人ならば、整形をしたパーツを見つけられればそれで納得できるのかもしれないけど、あたしの場合はそのパーツがない。
 ずっと、ずっと、ずうっと違和感を感じ続けて、その違和感が気づくと不安、そして恐怖へと変わっていく。
 化粧って嘘なのかもしれない。
 誰でも嘘をつく。でもそれってとっても単純で、いつかは分かってしまうもの。
 あたしの嘘は何層にも重ねられて自分でも分からない。

 ああ、ダイヤモンドが欲しい。

 本当に輝いている永遠の象徴が。

 あたしが嘘であっても、ずっとそばにいる本物が。

 それまであたしは氷を側に置き続ける。最高にきれいだけど、溶けてしまう氷を。
 あたしは氷を求め続ける。