シェアハウスの君と

 あたしの部屋はお風呂場だ。
 馬鹿みたいに聞こえるかもしれないが、あたしの部屋は本当に浴室なのだ。
 シェアハウスでお風呂場に住んでいるなんて非常に環境が悪いように聞こえるかもしれないが違う。
 あたしはもらった部屋をリフォームしてお風呂場にしてもらった。
 あたしの部屋は床も壁も天井もタイルが貼られている。
 冷たい。
 部屋の前でスリッパを脱いで、部屋に入るとひんやりとした冷たさが足の裏から伝わってきて気持ちがいい。まだ、火照っていたからだの芯がちょっとだけクールダウンする。
 あたしは服をすべて脱いで、部屋の入口のカゴに放り込む。
 蛇口をひねってシャワーを出す。局地的な大雨が肌に当たる。ちょっと痛いけれどとても安心できる。皮膚の表面の汚れが洗い流されているそう感じられるから。
 肌に悪いのは知っている。皮脂が流れて潤いが保てなくなるらしい。だから、お風呂からあがったあとは髪は椿油でトリートメントして、身体は馬油でしっかりと保湿する。
 洗顔用ネットに石鹸を擦り付けてホイップクリームのような泡を作る。小さな泡は手にもちもちと吸い付いて心地がいい。できるだけ荒れないように自分のてで撫でるように洗う。すべすべと肌の上を手がなでていく。やわらかい泡に包まれる感覚は安心できる。今、自分はきれいになっているんだって実感できるから。
 石鹸を洗い流すときのシャワーはさっきより弱い。ゆっくりとお湯と石鹸の泡が肌の上を移動していく。ちょっとくすぐったい感覚がもどかしい。
 本当なら、このあとはゆっくりと湯船に浸かりたい。
 体調にあわせて選んだお気に入りのバスソルトとか、たまには贅沢してラメや花が入ったバスボムとか。
 ネコ足が可愛いロココ調のバスタブで自分のための時間を作りたい。
 体中の筋肉をゆるめてリラックスしたかった。
 だけれど、今日は無理なのだ。

 お気に入りのバスタブの中は氷で埋め尽くされている。
 このバスタブ探すの苦労したのにな。
 でも、今は緊急事態だから仕方がない。仕方がない。
 あたしはあきらめるための呪文を唱える。ずっとこの呪文で生きてきた。いや、縛られてきたというのが正しいかもしれない。
 あたしはこの秘密を隠さなければならない。
 よくよく見ると熱いシャワーを浴びたせいでちょっとだけ氷が溶けている。
 私は自分のお気に入りのバスタブを埋め尽くす氷にそっとささやく。
 ごめんね。
 私の目からポロリと塩の結晶の素が転がり落ちる。
 私はそうバスタブに囁いてキッチンに氷をとりに行った。