大学の正門をくぐると、芝生が広がり、その奥にはちょっと洒落た建物が堂々と立っている。
一階部分はカフェがあって、一杯六百円のコーヒーがムーミンのカップで飲めるということでキラキラとした女子に人気だ。
シンプルなブラックコーヒーが六百円なら、女子が好むようなホイップクリームやらキャラメルソース、ナッツがトッピングされたものは八百円くらいするだろう。
ずいぶん高い飲み物代だ。
残念ながら僕はそんなセレブじゃないので、その向かいの正門からは見ることができない位置にある、小汚い学食でうどんをすする。
別にそばでもいいのだが、なんとなくうどんを頼むことの方が多い。
学食のうどんは特別だ。
特別にまずい。
ただでさえ、不愛想な学食のおばちゃんは麺類担当だと、さらに三割増しにごきげんななめだ。
出てくるうどんも、注文をうけてから茹でているのにも関わらず、妙に生白くてぼにょぼにょしている。お世辞にも美味しいと言えない代物だ。
ずるずるすすろうとすれば、柔らかすぎるめんはその勢いに耐え切れずに、ぼちゃぼちゃと汁の中に再びダイブする。
だけど、なんだかこのうどんはほっとするのだ。
「体が弱っているときって、こういうもののほうがほっとしない?」
あれは確か、大学一年生の梅雨の日のことだった。なれない一人暮らしで、体調を崩して寝込んだ僕のところにサークルの女の子が遊びに来てくれたのだ。
あの時作ってくれたうどんそっくりにまずいのだ。
あの子も確か、初めての一人暮らしで、料理の腕は僕の方がましなくらいひどかった。
だけど、あの時のなんとも言えない温かい気持ちが記憶に残っている。
そういえば、あの子はどうなったのだろう?
あのあとお礼の食事やら、映画にいっしょにいったことまでは覚えているのだが、そのあと特別に何かが起きることはなかった。
僕に残ったのはこのまずいくたくたのうどんを楽しむ方法だけだ。
身体が弱っているとき、確かにくたくたに茹でられたうどんは消化にいいし、体もあっためてくれる。
化学調味料と醤油をぶち込んでつくったような汁をいっきに飲み干すと、鼻詰まりもいっしゅんだけ良くなった気がして頭がすっきりする。
あれ、僕は具合が悪いのだろうか?
図書館でレポート用の本をかりたら、今日は早く帰ることとしよう。
僕は、リノリウムの床をキュッキュッと踏みしめながら、食器類と趣味の悪い緑色のお盆を返却した。
途中で、いかにもリア充っぽい男がこちらを無遠慮な目で見ていて腹が立ったので、僕
はスニーカーで余計に床をこすって音をたてながら歩くようにした。
これだから、リア充は嫌いだ。
一階部分はカフェがあって、一杯六百円のコーヒーがムーミンのカップで飲めるということでキラキラとした女子に人気だ。
シンプルなブラックコーヒーが六百円なら、女子が好むようなホイップクリームやらキャラメルソース、ナッツがトッピングされたものは八百円くらいするだろう。
ずいぶん高い飲み物代だ。
残念ながら僕はそんなセレブじゃないので、その向かいの正門からは見ることができない位置にある、小汚い学食でうどんをすする。
別にそばでもいいのだが、なんとなくうどんを頼むことの方が多い。
学食のうどんは特別だ。
特別にまずい。
ただでさえ、不愛想な学食のおばちゃんは麺類担当だと、さらに三割増しにごきげんななめだ。
出てくるうどんも、注文をうけてから茹でているのにも関わらず、妙に生白くてぼにょぼにょしている。お世辞にも美味しいと言えない代物だ。
ずるずるすすろうとすれば、柔らかすぎるめんはその勢いに耐え切れずに、ぼちゃぼちゃと汁の中に再びダイブする。
だけど、なんだかこのうどんはほっとするのだ。
「体が弱っているときって、こういうもののほうがほっとしない?」
あれは確か、大学一年生の梅雨の日のことだった。なれない一人暮らしで、体調を崩して寝込んだ僕のところにサークルの女の子が遊びに来てくれたのだ。
あの時作ってくれたうどんそっくりにまずいのだ。
あの子も確か、初めての一人暮らしで、料理の腕は僕の方がましなくらいひどかった。
だけど、あの時のなんとも言えない温かい気持ちが記憶に残っている。
そういえば、あの子はどうなったのだろう?
あのあとお礼の食事やら、映画にいっしょにいったことまでは覚えているのだが、そのあと特別に何かが起きることはなかった。
僕に残ったのはこのまずいくたくたのうどんを楽しむ方法だけだ。
身体が弱っているとき、確かにくたくたに茹でられたうどんは消化にいいし、体もあっためてくれる。
化学調味料と醤油をぶち込んでつくったような汁をいっきに飲み干すと、鼻詰まりもいっしゅんだけ良くなった気がして頭がすっきりする。
あれ、僕は具合が悪いのだろうか?
図書館でレポート用の本をかりたら、今日は早く帰ることとしよう。
僕は、リノリウムの床をキュッキュッと踏みしめながら、食器類と趣味の悪い緑色のお盆を返却した。
途中で、いかにもリア充っぽい男がこちらを無遠慮な目で見ていて腹が立ったので、僕
はスニーカーで余計に床をこすって音をたてながら歩くようにした。
これだから、リア充は嫌いだ。