「大丈夫みたいだよ」
サクラはふすまが音をたてないようにそっと閉めると、こちらをみてそっと微笑んだ。
僕が不安でそこから動けずにいると、サクラは僕の手を引いてキッチンへと向かった。僕は泣きそうな顔をしていたのだろう。「大丈夫、大丈夫だよ」小さな子供にするみたいにサクラは僕の頭を優しくなでた。ほんとにそっと、触るか触らないかくらい。こんなときに言うのもなんだが、ちょっと毛根に自信がないので、その触り方はありがたかった。サクラはよしよしと僕の頭をなでてくれたあと、僕の顔をのぞきこむ。
なんだか子供の頃を思い出す。
子供の頃の僕はとても泣き虫でどうしようもなかった。いっしょに遊んでいても、置いていかれてばかりだった。こんどは寂しくてないていると、だれかのおねえちゃんがいつもハンカチを差し出してくれた。
とっても優しくて暖かい気持ちになって、僕はすぐ泣き止むことができた。
あの女の子はいったい誰だったのだろう。
優しい目をして、子供なのに手はひんやりと冷たかった。
ひんやりと冷たい手が優しく僕の前髪をすく。「大丈夫、大丈夫だよ」優しい声が繰り返す。
僕はあの女の子の弟が凄くうらやましかった。
あの子は僕に優しかったけど、弟は特別だった。僕を慰めている最中であっても弟に何かあれば駆けつけた。いつだって、どんなときだって、その曇りのない瞳には弟の姿が映されていた。そりゃあ、あたりまえだろう、よその子よりも自分の弟をたいせつにするのは当然のことだ。だけれど、俺はそれがうらやましくって、その弟が憎らしくって仕方がなかった。
いつの間にかその女の子も弟も見かけなくなったが子供の時のことだ。だれかがいつの間にか引っ越しているのはべつによくあることだし、なんとなくで遊んでいるのであの子たちが誰かは分からないのだ。いつもの遊び場にいると大抵いるというだけで、名前さえも分からない。
子供って不思議だ。その場にいるだけでいいんだから。名前も知らないでいられるなんて大人ではありえない。どこのだれというラベルをきちんとはってから付き合いが始まる。
あの子たちはどこに消えてしまったのだろう?
気が付くとサクラがこっちをじいっと見つめている。夜空の色をした瞳のなかにいるのは一人だけだ。
僕だけを見つめるサクラ。
その瞳はあの時のおねえちゃんにそっくりだった。
僕はもしかしてとあの頃のことを聞いてみようと思うが、なんていえばいいのか分からずに声が出ない。声にならない言葉がのどのあたりでひゅうひゅうと言っている。
「大丈夫、大丈夫だよ。カナエさんがついててくれるし。なんだかちょっと貧血なだけみたいだから、ね」
サクラの言葉をきいて少しだけ安心するが、僕の喉では言葉が声にならずに漂い続ける。
そんな僕をサクラは不思議そうな目でみつめて首をかしげたとおもった次の瞬間、僕の頬にはやわらかいものが触れていた。
サクラは僕の頬にキスをしていた。
サクラはふすまが音をたてないようにそっと閉めると、こちらをみてそっと微笑んだ。
僕が不安でそこから動けずにいると、サクラは僕の手を引いてキッチンへと向かった。僕は泣きそうな顔をしていたのだろう。「大丈夫、大丈夫だよ」小さな子供にするみたいにサクラは僕の頭を優しくなでた。ほんとにそっと、触るか触らないかくらい。こんなときに言うのもなんだが、ちょっと毛根に自信がないので、その触り方はありがたかった。サクラはよしよしと僕の頭をなでてくれたあと、僕の顔をのぞきこむ。
なんだか子供の頃を思い出す。
子供の頃の僕はとても泣き虫でどうしようもなかった。いっしょに遊んでいても、置いていかれてばかりだった。こんどは寂しくてないていると、だれかのおねえちゃんがいつもハンカチを差し出してくれた。
とっても優しくて暖かい気持ちになって、僕はすぐ泣き止むことができた。
あの女の子はいったい誰だったのだろう。
優しい目をして、子供なのに手はひんやりと冷たかった。
ひんやりと冷たい手が優しく僕の前髪をすく。「大丈夫、大丈夫だよ」優しい声が繰り返す。
僕はあの女の子の弟が凄くうらやましかった。
あの子は僕に優しかったけど、弟は特別だった。僕を慰めている最中であっても弟に何かあれば駆けつけた。いつだって、どんなときだって、その曇りのない瞳には弟の姿が映されていた。そりゃあ、あたりまえだろう、よその子よりも自分の弟をたいせつにするのは当然のことだ。だけれど、俺はそれがうらやましくって、その弟が憎らしくって仕方がなかった。
いつの間にかその女の子も弟も見かけなくなったが子供の時のことだ。だれかがいつの間にか引っ越しているのはべつによくあることだし、なんとなくで遊んでいるのであの子たちが誰かは分からないのだ。いつもの遊び場にいると大抵いるというだけで、名前さえも分からない。
子供って不思議だ。その場にいるだけでいいんだから。名前も知らないでいられるなんて大人ではありえない。どこのだれというラベルをきちんとはってから付き合いが始まる。
あの子たちはどこに消えてしまったのだろう?
気が付くとサクラがこっちをじいっと見つめている。夜空の色をした瞳のなかにいるのは一人だけだ。
僕だけを見つめるサクラ。
その瞳はあの時のおねえちゃんにそっくりだった。
僕はもしかしてとあの頃のことを聞いてみようと思うが、なんていえばいいのか分からずに声が出ない。声にならない言葉がのどのあたりでひゅうひゅうと言っている。
「大丈夫、大丈夫だよ。カナエさんがついててくれるし。なんだかちょっと貧血なだけみたいだから、ね」
サクラの言葉をきいて少しだけ安心するが、僕の喉では言葉が声にならずに漂い続ける。
そんな僕をサクラは不思議そうな目でみつめて首をかしげたとおもった次の瞬間、僕の頬にはやわらかいものが触れていた。
サクラは僕の頬にキスをしていた。
