シェアハウスの君と


 サクラが華奢な手でそうっと白いカップを包みこんで微笑んでいる。
 家でお茶をみんなで楽しむのもいいけど、たまには外の味もいい。それに、僕は今日はサクラと二人だけで話したかったのだ。
 のっぺりとしたムーミントロールのカップやおしゃれな雑誌が飾られた店内は家とは別な空間としての居心地のよさがある。それに、サクラの洋服も心なしかいつもよりちょっとだけ余所行きで可愛いワンピースで得をした気分になる。
 サクラと僕の間にはショートケーキが一つだけ置かれている。
 艶々の苺が普通より大きくてなんとも美味しそうだ。
 なんでも、今日は苺の日らしく、いつもよりワンランク上の苺を地元の農家さんが朝に摘んだものをのせているらしい。いぜん、料亭でも同じくだりで水菓子として苺がだされたことを思い出す。
「半分こして、食べよ?」
 今日はそんなに甘いものを食べたくはなかったが、そういったときのサクラがとてもかわいく、一つのお菓子を分け合って食べるなんて恋人同士みたいだと思った僕は、二人分の飲み物代とこのケーキの代金を支払った。
 ケーキと言えば、三角形をしていると思っていたが、目の前のショートケーキは四角だった。スポンジ部分はカステラで普通のショートケーキよりも甘いけれど、酸味の強いコーヒーにあうらしい。クリームと苺がたっぷりとのせられた様は昔の少女漫画をほうふつさせる。
 ピンク色のカーディガンを羽織ったサクラは少女のように目をキラキラさせながら、ショートケーキを見つめる。
「お夕飯、食べられなくなちゃうかなー」
 なんていいながらも、洒落たデザインの銀色のフォークをちゃっかりと右手に持っている。
 ランチ用のナイフを店員さんに無理をいって借りてきたらしく、フォークとナイフを使ってサクラは器用にケーキを半分に切り分けた。
 僕と違い崩すことなくケーキをきれいに切り分けたその姿に感心していると、いつも控えめなサクラは珍しく自信たっぷりに微笑んでこう言った。
「ナイフを持ったときは、ためらっちゃダメなの。」
 苺の断面からは紅い果汁が滴ることなく、切られたことにも気づいてないようである。
 苺の中の薄いピンク色の果肉とはっとするほど白い筋が作り物めいていて不思議な気分になる。外側はいかにもみずみずしくて美味しそうな色をしているのに。

 銀色のフォークが一口分をケーキから優雅に切り離す。
 サクラのピンク色の唇が苺に触れる。
 そのピンクと紅のコントラストに僕はなぜかぞくぞくした。
「ねえ、サクラ話したいことがあるんだけど」
 サクラはちょっとだけ首をかしげたあと、にっこりと微笑んだ。
「いちごちゃんのことでしょ? でも、きっとあなたなら解決できるって信じてたよ。大丈夫。あの子はきっと変われる。あなたのおかげだよ。ありがとう!」
 彼女はそういって、フォークで苺を突き刺し僕の口に運んだ。
 僕はそれ以上、何も言うこともできなかった。