シェアハウスの君と


 でも、変わったのは数年前ね、風邪を引いたの。
 空気がとても冷たい冬の日の夜と昼の間の頃、私は病院からの帰り道を歩いていたの。
 そのときね、偶然このワンピースを売っているお店の前を通ったの。前から雑誌で見ていて、可愛いなって憧れてたワンピース。トーションレースで飾られた襟がとっても可愛くて、お姫様みたいだと思っていたの。でも、自分には絶対に似合わないって。
 私は思わずそのワンピースに見とれてショーウィンドウの前で足を止めて見とれてしまったの。いつもなら、完璧なロリータさんの店員さんに笑われたり無視されるんじゃないかって怖くていつも足早に通り過ぎるだけなのに。風邪を引いて熱があったから、どうかしていたのかもしれない。
 でもね、ショーウィンドウに薄っすらと映る私の姿は別に変じゃなかったの。
 紺色のシンプルなコートを身に着けて、マスクをした私の顔はお店に買い物に来ていた他のロリータさんよりずっと目はぱっちりしていて、あのワンピースを着るのにふさわしい女の子のように思えたの。
 気が付いたら、そのワンピースを買っていた。
 あの、深紅のふわふわな絨毯の上に立って、ワンピースから靴下までロリータ装備一式をね。
 はずみだったけど、かなり痛い出費だったけど、後悔はしていないよ。
 それから、私はねマスクをしているときは上を向けるようになったの。
 自分の殻にこもらずに、誰かと話すこともできるようになった。おかげで、サクラちゃんやみんなに、もちろん君にもであえて、みんなで一緒に過ごせるようになった。
 今まで下を向いて歩いていた人生をもったいなかったけど、だから、私はその分を取り戻したいの。
 風邪でもないのにずっとマスクをしているって、変かもしれない。わかってるよ。
 でも、私はこうしないと前を向けないの。
 でも、君が言うなら外すよ。不安で君と話すこともできなくなってしまうけど、君が望むなら」

 イチ子、いや、いちごちゃんの目には涙があふれ、キラキラとした流れ星が彼女の頬をいくつも過ぎた。
 彼女の夢や思いがあふれ出た星のしずくたちは静かに流れて消えていく。

 僕はそっと首を振った。