理想の朝食。
 その言葉がふさわしい光景がテーブルという広いダンスフロアの上には広がっていた。
 お米はつやつやふっくらに炊き上がり、白い湯気と甘い香りを漂わせている。
 鮭の切り身はじゅわあっと油が溶けだし、その鮮やかな紅さを主張している。
 ほうれん草のおひたしは、冷たく静かにたたずみ。ときどき、ほろりと口の中を落ち着けてくれる。
 卵焼きは最高だ。ふわふわに焼き上げられたそれは、齧った途端に出汁がじゅうっと染み出して、口の中にあふれ出す。砂糖ではない、素材の甘味が体も気持ちも優しくしてくれる。

 こんな朝食を食べられるなんて夢みたいだ。
 毎朝、僕は朝食に感動する。
 美味しくて震える。こんな体験はここに引っ越してくるまでなかった。
 美味しいって人を感動させるものだなんてしらなかった。

 磨き上げられた木のテーブルの上には先ほどのおかず以外にも、じゃこのふりかけやら納豆の小鉢、温泉卵、味付きのりに、焼きたらこといったあるとちょっとうれしいおかずが何種類もこちゃこちゃと並んでいる。
 小さな器に盛られたそれらは、食卓の上をにぎやかにしてくれる。

 この家に住んでよかったと朝一番に感じることができるのだ。

 温かい食事に、快適な家、そして血のつながりはないけど一緒に住む仲間たち。

 幸せだ。

 こんな幸せな日が来るなんて想像したこともなかった。

 誰かと食事し、誰かと笑いあい、誰かの為に家事をする。
 当たり前のことが、こんなに愛おしくなる日がくるなんて。

 僕が幸せをかみしめていると、台所から、淡いピンク色のエプロンを身に着けた女性がひらりと現れた。
 長い髪はレースのリボンで一つにまとめてあり、とても可憐だ。
「ほらー、さっさと食べちゃいなさい。大学、今日一限あるんでしょ?遅れちゃうよー」

 僕はそんな声に返事をするように、最高の朝食を頬張った。