シェアハウスの君と

「ねえ、人生で一番初めの記憶ってなに?
 私はね、お砂糖でできた薔薇なの。
 お店で売っているケーキって普通はフルーツがたっぷりのっているじゃない?あとはチョコレートとかが人気かな。
 でも、私の記憶の中で初めて見たケーキの上にのっているのは薔薇なんだ。
 淡くて夢みたいなピンク色をしているの。銀色の丸い滴も散らされていて、まるでドレスみたいだった。信じられないくらいロマンチックで、本物の薔薇よりも素敵だと思ったの。だって、本物の薔薇にはトゲがあるのに、目の前の薔薇にはトゲがないだけじゃなくて、甘いお砂糖でできているんだもの。
 とっても可愛かった。
 たぶん、それが私が私になった瞬間だと思う。
 それまでは、私の身体という入れ物はあったのだけれど、そこには色んな子供がふわふわと出入りしていて私じゃなかったの。
 たとえばね。薔薇をみれば、綺麗とおもったり、その鮮やかな色に惹かれたり、トゲに触って泣く。色んな私がいたの。だけれど、お砂糖でできた薔薇を見た瞬間に私は私になることができたの。
 真っ白なケーキの上にのせられた、人の手で作られたぽってりとしたちょっと野暮ったいというか温かみのある薔薇の砂糖菓子をみるていると、まるで夢の中にいるみたいな気持ちになったの。ああ、胸が高鳴るってこういうことなんだって感じた。
 実際、そのあと夢の中で薔薇を見ると現実薔薇そのものなんだけどね。夢の中って不思議だよね。ありそうで、実際にないものがたくさんあるんだもん。

 ねえ、私のこと馬鹿みたいと思っている?
 君はやさしいから、そんなこといわないけど、実は思っているでしょ?

 ううん、自分でもわかっているの。いい年してさ、こんなピンクとかレースとかフリルのモノを身に着けるなんておかしいって。本当は年齢にふさわしい恰好をしなきゃいけない。もっとシックで長く使えそうな上品なものを身に着けていないといけないって。そうしないと、世間様から変な目で見られるってことも分かっているの。頭がおかしいって思われちゃうって。
 でも、でも、でも、私は分かっているけどこの恰好をやめられないの。
 私はね、可愛い恰好をするためにいきているの。

 似合わないってわかっているよ。

 私なんかに可愛いものが似合うわけがないって。

 でも、可愛いものを見た瞬間って生きているって感じがするの。
 この為に生きているって。

 君にはわかんないよね?