シェアハウスの君と

「ルールそのよん!」
 舌っ足らずな甘い声が僕の耳を犯す。
 彼女の声を聴くとまるでイチゴミルクキャンディーを耳の中に詰め込まれているような気分になる。ざらざらとピンク色のイチゴ模様のセロファンに包まれた塊が流し込まれて、それがどんどんおわかりさせられる。詰め込まれたキャンディーはさらにぎゅうぎゅうと押され、最後には僕の耳の中でパリンッと割れる。
 彼女はいちごちゃん。
 本当の名前はイチ子っていうらしいけど、ここではみんな彼女を「いちごちゃん」と呼んでいる。そうしないと彼女は返事をしないだけでなく、不機嫌になるから。(さっき、ルール3.5としてサクラが教えてくれた)
 彼女は楽しそうにくるくると回る。
 レースがたっぷりとあしらわれた生成りのスカートがふんわりと広がって、発表会か観劇に来た少女のようだ。
 まっすぐに切りそろえられた前髪と傍らにいるテディーベアも手伝って彼女の印象は非常に幼い。
「ちょっとお、ちゃんときいてね。だいじなことなんだから!」
 いちごちゃんは僕のことをじいっとじいっと上目遣いで見つめる。睫毛に縁どられたそれは、近くで見ると想像よりは小さかったけど、形がよくてとてもやさしげだった。
 僕が真面目に聞いていると思ったのか、いちごちゃんはポスンとソファーに座る。僕と違うのはひざの上にあるのはクッションではなく、テディーベアーであることだ。
「あのね、みんなが気持ちよく過ごすためのルールだからこれはきちんとしてほしいの」
 いちごちゃんはちょっとだけ、まじめになってこちらを見つめる。
 僕は彼女の真剣な様子に、しっかりと頷く。
 その様子をみて、サクラはにこにこと微笑んでいた。
「るーるそのよん♪お当番制の仕事はちゃんとやること」
 そういって、居間の壁にかかったコルクボードを指さす。そこには、小学校の頃みたいな当番表が張られていた。
 僕は自分でいうのもなんだが、まじめな方なので全く問題ないことを伝えるといちごちゃんはにっこりわらって、こういった。
「ようこそ、我が家へ」
 いちごちゃんのまなざしはとっても温かく、差し出された手を握ると驚くほど冷たかった。
 でも、いうじゃないか?手が冷たい人はこころがあたたかいって。
 サクラはそんな僕たちの様子をにこにこと見守っていた。

 ただ一つ異様なのは、いちごちゃんはずっとマスクを着けていた。
 とても元気そうなのに。
 全体的に淡い色でいろどられた彼女のなかでそこだけが真っ白だった。