シェアハウスの君と

 廊下を通り抜けるとパタパタと軽い足音が追ってくる。その足跡はかなり近いが僕はあえて無視をする。なんとなく、からかわれているみたいで悔しかったからだ。
 僕は振り向きもせずに、ドアを閉める。ふとドアノブのあたりをみると、確かに部屋のドアには鍵が付いていたのでそれをカチャリと回す。小さな金色のそれは僕を守ってくれると思うとちょっとだけ頼もしかった。
 僕はほっとしてドアを背にしたままその場に座り込む。
 一人の空間に対する安堵感でちょっとだけ、目じりが熱を持つ。
 さっきまで香っていた鮮やかな異国の花のような香りが鼻の中に少しだけ残っていたので、自分を落ち着けるためにあえて口で息をする。
 ふうっと息を吐いて、自分の匂いが少しだけついた部屋の空気を吸い込む。
 そうすると、さっきまでハムスターが走り回っていたみたいな胸の中が少しだけ落ち着いた。どうやらハムスターは昼寝をするかひまわりの種を齧りに行ってくれたようだ。
 僕は、下着としまってある缶を取り出す。小さな缶はずっしりと重く片手で持つと指が震えた。缶自体はなんの変哲もないものだ。ディズニーランドのお土産のお菓子がはいっていたものだ。
 ちょっと間の抜けた顔の黄色いくまが下半身を大胆にも露出させたイラストが描いてある。ぽってりとした丸いお腹は彼が自然界において強者であり、十分に食事をとれていることを表しているみたいだ。きっと、リア充なんだろう。
 僕はちょっとだけその眉毛のあるくまがうらやましくなった。
 この缶をくれた少女はやたらとこのくまを気に入っていた。ディズニーランドのお土産の本体はお菓子ではなくてこの缶なのだろう。少女はお菓子を食べた後のこの缶をくれた。
 僕はこの露出が大胆すぎるくまには興味はないが、しっかりとしたものだったので俺はなんとなくこの缶で五百円玉貯金を続けている。
 缶の中に無造作に入った五百円玉は硬貨というよりおもちゃみたいだ。
 でも、それがいいのだ。なんとなく、お金をつかっているという感じがしないから。海外にいって買い物をするのに似ている。海外のお金だとついついお金という意識が薄くて、まるで幼稚園の子供がごっこ遊びをしているみたいな気分になる。
 僕は不意な出費とあの金魚みたいな唇についていけない。
 胸の中のハムスターが再びくるくると回し車を回し始める。
 だけれど、ここで逃げてはなめられてしまう。
 僕は意を決して銀貨を2枚取り出して、真っ赤な唇のサキュバスが待つ居間に向かった。