ピンク色の毛布が肌を優しく包みこむ。
 お日様の匂いと柔軟剤が混ざり合い、懐かしくてとてもいい香りに包まれる。
 色というのは不思議だ。
 ピンク色なんて普段身に着けることはなかったが、とびきりあたたかい。
 淡いピンク色はその色自身が色を発しているみたいだった。
 子供の頃近所の家で飼っている犬のお腹みたいにやわらかくて暖かかった。
 ちょとだけ、自分の体温がまざってしっとりと毛布が体にはりつく。
 心地が良くて起きることができなかった。

「ほら、おきてー」
 ぼくがそうやって毛布にくるまって、しばらくするとサクラがきた。
 狸寝入りをしている僕に気づいてか毛布の端をつかんだかと思ったら、えいっ!といっしゅんで毛布がはぎとられた。
 さっきまでのぬくもりが嘘のように床は冷たかった。

 正直にいうと、冷たい床は暖かい毛布よりも子供の頃の感覚を呼び覚ました。
 冷たく体温を奪う固い床。
 冬は特に寒かった。
 あれほど母が待ち遠しい季節はなかった。
 子供の頃、学校からの帰り道のことはくっきりと覚えている。
 さっきまで、自分がいた教室もクラスメイト達が消えていくにつれて、全く知らない場所に変わっていく。
 さっきまでふざけあってた場所が冷たく僕を拒絶する。
 ちょっとカーテンがゆれただけで、そこに幽霊が見える。
 賑やかな笑い声が消えた後の教室は僕の声は響くことなくただ壁に吸い込まれていく。そんな不気味な様子におびえて僕は逃げるように教室から走り去った。

 冷たい空気がほっぺの一番上を切りつける。走っているとだんだん息が苦しくなる。
 喉がかわいて、あつい。
 だけど、身体の表面は冷たいもの突き刺さる。
 自分の身体なのに、暑いのと冷たいので体がばらばらになったみたいに感じる。
 走っているといつもの景色がぐんぐんと変化していろんな色がたくさん目を通して頭に飛び込んでくる。
 黄色い車をみられた日はラッキーだ。
 お向かいの犬の首輪が新しい色になっている。
 いろんな情報が目に飛び込んできて、自分がとても強くなったような気がした。
 走っていて熱くてどきどきした状態で、僕は家の鍵をあけた。

 その瞬間僕の世界は再び冷たく止まった。

 薄暗い部屋は教室以上によそよそしくて、冷たかった。
 ストーブをつけられれば違ったのだろうが、母はストーブをつけることをゆるさなかった。
 僕は一人寒い部屋で凍えながら母をまっていた。
 冷たい床がどんどん体温を奪っていく。
 さっきまで胸が高鳴って自身があったのが嘘みたいに冷たい部屋のなかで自分が小さくなって、吸い込まれていくみたいでとても孤独だった。

 サクラに毛布を奪い取られた僕はそんなことを思い出して、一瞬で起き上がることになった。