誰かと一緒に住むということはもっと難しいことだと思っていた。
 もっと手間がかかって、やらなければいけないこと、決めなければいけないこと、届け出る手続きがいっぱいあるのかと思っていた。
 恥ずかしいくらい僕は世間知らずなのだ。
 誰かと一緒に住むといってなんとなくイメージしていたのは結婚だったからだ。

「おかえりなさい」
 エプロン姿のサクラが出迎えてくれた瞬間は感動したが、実際に僕たちの暮らしは結婚生活とは全く異なるものだった。

 そう、僕たちが暮らす一軒家は今流行りのシェアハウスというやつだった。

 僕らが暮らす家はサクラに言わせればごく普通の一軒家だ。

 キッチンや居間は共有スペースであとはそれぞれが適当に部屋を割り当てられている。
 なんだか、家族みたいだ。

 僕にも空いている部屋が割り当てられた。
 空色の壁紙に白いベッドと机が置かれたその部屋はとてもシンプルだった。
 シーツはパリッとしていて冷たくて触った瞬間とても清潔なことが分かった。ピンっとはったシーツはベッドメイクをしてくれた人が僕を歓迎してくれたんだなとなんとなくわかって嬉しくなった。
 僕の部屋は他の住人の部屋に比べると狭いらしいがとても居心地がよくて気に入った。
 日当たりもよくて、窓から入ってくる光は床をあたためてそこで昼寝をしたくなる。
 窓の外を眺めると猫が気持ちよさげにあくびをしていた。
 その様子はけだるさと幸せをまるめてふわふわにしたみたいで思わずこっちまで陽だまりの中の昼寝から目覚めたみたいな気分になった。
 砂糖がたくさん入ったホットミルクみたいに重くてとろとろした時間がそこにはあった。
 気が付くと僕は眠っていた。
 日なたと猫はとうに移動したみたいだが、僕には軽くてよい香りのする毛布が掛けられていて風邪を引くことはなかった。