僕の嘘はあっという間に世界を変えた。
 嘘であるのにも関わらず、僕はこの嘘で物語の舞台に立つことができたのだ。
 昨日まで名前も顔もないモブだった僕は、嘘をついた瞬間から物語の中での役割をもらうことができるようになったのだ。

 もうひとりぼっちじゃない。

 ただ、学校とアパートの往復だった日々は淡い色と光で色づけられた。
 ギラギラと眩しい青春がとんでもない速さで目の前で過ぎ去っていくのではなく、僕には僕の物語がありその中はとてもゆっくりとした時間の流れをしていて心地よかった。
 目の前を走り去っていく物語に振り回されることなく、自分の物語を生きる。
 ゆったりとした時間の中でお茶を飲んだり、本の話をしたりと幸せだ。
 淡いパステルカラーの光に包まれながら僕は青春というお菓子を一匙一匙ゆっくりと味わった。
 青春の味は、子供の頃、母親にデパートに連れていかれた日にレストラン街で食べるパフェの味に似ている。
 すべてが甘くとろけそうだ。
 ふわふわのクリームの海におぼれた、チョコレートシロップやプチケーキにアイスクリームに軸まで真っ赤なチェリーそれらを銀のスプーンですくいだして、毎回違う一口を味わう。
 どこを食べても甘すぎるくらい甘くて美味しいが、二度と同じ一口に出合うことはできない。
 僕は大切にその一口一口を味わう。
 そして、その大人には脳がしびれるくらい甘い一口にはとてつもなく美味しい一口が隠れていることがあった。
 すべてが絶妙なのだ。
 アイスクリームとちょっぴりのチョコレートシロップに果物の欠片それらが絶妙にまざりあって、味わったことのないような美味しい一口が出来上がる。
 ちょうど、あの日はそんな一口だったのだ。

「ねえ、よかったら一緒に住まない?」

 彼女は照れくさそうにそういって、笑った。
 ちょっとだけのぞく八重歯が彼女の可愛さを引き立てていた。