白くてのっぺりしたトロルがどこともいえない方向を呆けた顔で見つめている。紺色の空の中、吟遊詩人はトロルたちに何を歌いかけているのだろうか?
 マグカップの模様を簡単に説明するとこんな感じだ。
 大抵の女子学生は「かわいい!」といってパシャパシャ写真をとったり、「いやされるー」なんていいながらマグカップを口元にもっていきにっこりと微笑んで、ふうふうと息を吹きかけて甘く熱い液体を体の中に流し込む。
 どちらも、自分の可愛らしさを示すための行為らしい。
 胸のあいた服やら、短いスカートをはいた方が分かりやすいと思うのだが、そうはいかないらしい。
 女子というのは何とも面倒な生き物だと僕は思っていた。
 しかし、実際に目の前で大きなカップにふうふうと息を吹きかけて冷ましている彼女の姿はとても愛らしと思った。小さくため息をつく声は小さくてとても可愛らしい。
 飲み終わった後、カップにほんのりと口紅の色が映ってたのをそっと拭う姿はちょっとだけ色っぽかった。
 温かい飲み物を飲んだせいか、さっきまで陶器のように真っ白で艶々して冷たそうだった肌がちょっとだけ上気して耳は薔薇色に染まっている。
 こうやってみると、目の前にいる彼女は正直いうと僕の好みそのままだった。
 ひざ丈の地味なスカートにしっとりと肌になじむようなシルクのブラウスに暖かそうな手編みのカーディガン。清楚な服装が彼女の素材の良さを引き立てている。
 髪の毛を染めていないことにも好感が持てる。
 最近は誰でも髪を染めていておんなじ色にしているのに彼女は自らの生まれ持った自分の髪の色を受け入れている。きっと毎晩ブラッシングをかかさないんだろうと思わせるような髪には乱れがなく、彼女の育ちの良さがうかがえる。
 そして何よりも素晴らしいのはその声だった。
 彼女の声はとても甘い。
 耳に心地がよく、聞いているだけでもふわふわとしてまるで上等なリンゴ酒を飲んでいるときのような気分になる。
 また、彼女は他の女子学生のようにパシャパシャと節操なく写真をとろうとしない。それどころか、スマートホンを取り出そうともしない。どんなにちゃんとしてそうなこだって、テーブルの上に置いておくというのに彼女はスマートホンを気にするそぶり一つ見せないのだ。
 どこのだれが見ているか分からない世界への発信よりも、目の前の僕をしっかりとみている。
 僕はそんな彼女の存在に感動した。
 彼女の白い手の甲は血管が透けて見える。
 その白い手がこちらに向かって、何かを差し出す。
 僕は、ぼうっとなりながらその紙を受け取った。