「というわけで俺たち、付き合うことになったわけだが」
「おおっ!」
あれから二週間ほどが経った日のことだ。
文化祭の劇も無事に終了した打ち上げの席で、大五郎とリオが満を持して交際を始めたことを部員たちに告げた。
「よかったですね、本当に」
「うんうん、僕も協力した甲斐があるよぉ」
祝福ムードの中、一部の人間は悲喜こもごもといった様子で、打ち上げ兼残念会を開いているような席もあった。
あれから、妙に満足げな表情のリオと、げっそりやつれた大五郎が部室に戻ってきて、これからのことを話し合った。
曰く、脚本のベースはこのままで行く。
曰く、文化祭が終わったら付き合おうと思う。
曰く、色々心配かけてすまなかった……など。
それからは遅れてスケジュールを取り戻すため、全員が粉骨砕身で文化祭への準備に取り掛かった。
脚本に関してだが、リオの目的が達成されたことによって改訂が許可された。
能力の設定はそのままで、「好きな人にだけ触れることができない」という要素を足すことで作品を成立させたのだ。
あの時、二人のやり取りを見たことが効いたと吾妻は得意げに話していた。
「何て言うのも、終わってしまえばあっという間だったなあ」
しみじみと、米崎が呟く。
副部長の荷を下りて、少し気が休まったのかもしれない。
ところで、例の二人は。
「お、おい。リオ、あまりくっつくな。気絶するだろう」
「ええ、いいじゃないのよ大五郎。大五郎、だ~いごろう!」
「ぐ、ぐぬぅ……」
ご覧の通り、すっかり腑抜けていた。
相変わらず大五郎はリオに触れる事は適わないが、それでも心の距離はぐっと近付いたという。
「ああ、それに全く触れられないわけじゃないからな。握手のような形ならできるし、ほら」
聞いてもいないのに、自慢するように大五郎とリオがその手を部員たちに見せびらかした。
小指だけが繋がれた、ささやかな手と手の繋がりを。