空気を察してか、普段の調子で問いかけられる。僕は、「ああ」と頭を掻いてその紙芝居のおじさんを思い出してみる。
 ……しかし、どんな人だったのか覚えてない。すごく優しくしてくれた記憶はあるのだが。
 よく飴とかも配ってたし。
「あの人、何者だったんだろうね。お母さん達も別に怪しんでなかったし、割と有名な人なのかな」
「……さあな。僕もそこまでは覚えてない。今じゃああいう人って見ないから、もう辞めちまってるかもしれないし」
 そもそも紙芝居自体、もう廃れつつある文化だ。わざわざ見に行く子供もいないだろう。
 あの時はスマホやパソコンは僕らの手に届かなかったし、わざわざテレビなんかみるよりも、単純に皆で公園で見る紙芝居の方が面白かった。
 話はどうあれ、一緒にきゃーきゃー言い合えるのは楽しかったし、その後に物語に出てきたキャラになりきってごっこ遊びも出来た。
 だから、紙芝居は人気だった。
 次の日にならないと続きが分からないあのドキドキ感は、当時はマンガやアニメよりも凄まじかったのだ。
「ん、まあ続きはまた明日って事で、今日は終わりにしようぜ」
 そうやって昔の事を思い出しつつ僕は空になった丼を持って席を立った。そろそろ眠たくなる時間だ。明日の学校に備えて寝てしまおう。
 無論、ただ行くだけの話で、授業とかある訳じゃないが、習慣を怠るのは良くない。
 夢前も僕を見て立ち上がる。流し台の水を張った桶に容器を入れ洗剤を垂らしておく。
「ごちそうさま」
「うん。おそまつさま」
 それだけ言って、フードコートを出る。大した言葉も交わさず、淡々と歩いて寝床の家具屋のフロアに向かっていった。

 途中、突き当りにあった晴着を着たマネキンが人に見えて、二人して声を上げる。全くの同タイミングで驚いたのだ。さすがに馬鹿馬鹿しくて笑い合う。それきっかけに、また普段の感じの適当な会話が繰り広げられる。
 こうして今日も終わる。
 この日常がまだ続いて欲しい。なんて、ありきたりなくだらない事を願う。
 
 僕らはまだ、昔みたいに、ほんの子供だ。

 5

 この街はずっと夕暮れで、時間というものが無い。
 だから、時計なんて必要ないし、何かに急ぐ必要も無い。
 朝も夜も来ないし、雨も曇りもない。
 けど、腹は減るし眠くもなる。