その瞬間、授業開始のベルが鳴り響く。
「……ふっ、すごいタイミング」
わたしに手を握られながらまた小さく笑うその声にもやっぱり聞き覚えがあって、そしてよくよく考えてみたらこの人は、同じクラスの海姫くんだと気が付いた。
「……う、海姫くん、が、人魚さんなの?」
「うん?」
にこにこと口元を緩ませはぐらかす彼とは、正直クラスでは一度も話したことがなかった。
ただ、名前は知っているし、どんな人なのかは知っているつもりだった。
成績はいつも上位で紙に貼りだされているし、スポーツもそこそこできる。
ただ、顔はいつも前髪で隠れていて見えなくて、でも鼻筋は通ってるし唇も形がよくてきれいだし。
女子の間では絶対イケメン! なんて噂話が出るくらいだけど、素顔を見たことがある人はいないらしかった。
わたしが知る海姫くんはそれがすべてで、こんなふうに口元を緩ませ、わたしの質問をゆるく躱す人だとは、知らなかった。



