誰もいない25メートルのプールは、思った以上に広く見える。
夏休みの間、生徒に無料で開放されているといっても、高校生にもなって学校のプールで遊ぶ人はまずいない。
そのため、ほぼ一か月もの間使われていないプールは落ち葉だらけで汚い。
……はずだったのだ。
「なんでこんなにきれい?」
プールのこちら側から25メートル先まで、見渡す限りきれいだ。
物好きな誰かが、泳いでいたとか?
水泳部が廃部になったのは、わたしが入学する3年前だったそうだから、もしかしたら水泳部に入りたかった1年生の子とかだろうか。
これなら今日は水を抜いて、明日プールの底を軽く磨くだけで良さそうなんて思う。
毎年、わたしみたいに補習の時にプールでさぼる生徒がいて、先生はラッキーとばかりに掃除を押し付けるんだって聞いたけど、今回ラッキーなのはわたしの方みたいだ。
今年の夏は、補習のせいで毎日学校で過ごした。
友達とも遊べなかったし、彼氏もできなかったし、もちろん夏祭りだって行っていない。
海に行くなんてもってのほかだ。
夏休み、最後の思い出に、残りの補習を頑張るためにも、今日の夜泳ぎに来よう。
決めたら後は行動するだけ。
持っていたモップを投げ出して、かわいいビキニを買いにショッピングモールに走る。
背中に貼りついていた制服が、待ち遠しいと言うようにはためいた。