「せめて、名前くらい教えて!」

 どうしてもまた会いたいから、そう聞いた。

 そんなわたしに彼は、それはヒント与えすぎじゃない? なんて渋い顔をした。

 それもそうだ、わたしは彼の顔も見ているし、声だって、学校で聞けばきっとこの人だってわかると思う。

 学校でこんなイケメンは見たことないから、きっと別のクラスか違う学年の人だろう。

 そう予想はついても、もしも彼がわたしのことを知っていて、意図的に避けられたり逃げられたりしたら、わたしに彼を探し出すことなんて到底できそうにない。

 ……でも、きっと、見つけられなかったらそれまでなんだ。

 人魚はほんとの伝説として、わたしの中に残るだけ。

 つまらない補習だけの夏休みの終わり間近に見た、不思議な夢だったと思うしかないんだ。