そんな当たり前の事実に、少しだけ傷ついている自分に気が付いて驚く。
もう会えないんだなって残念に思うってことは、また会いたいって強く思っているっていうことと多分一緒なんだ。
わたしは人魚じゃなくて、たぶん、いや絶対、この人に惹かれてしまっている。
未知のものに出会った胸のドキドキと、恋のドキドキの違いはわたしにははっきりとわからないけれど、不思議とそう思った。
「もう23時だけど、きみは帰らなくていいの?」
「えっ!」
「時間、気にしてなかったの?」
驚いて声をあげたわたしに、小さく笑いながら、だけど心配するような言葉をくれる彼。
わたしが驚いたのは時間じゃなくて、あなたが声をかけてくれたからなんだけどな。
「もう遅いし、帰るよ。……あなたとはきっと、もう会えないんだよね?」
プールにつかったままのわたしと、少し上にいる彼との距離は数メートル。
夜が深まってきて、ささやくような小さな声だけど、それは空気を伝ってよく聞こえる。
同じように、彼もささやくように喋る。
「会えるかどうかはわからないけど……、俺からは会おうとはしないし、君に見つかりたいとも思わない」
彼の言葉に、胸が痛くなる。
でも、「だけど、」と続いた彼の言葉に、一気にうれしさがこみ上げた。
「君が俺を見つけたら、俺の負け。俺は観念して、君とちゃんと会って話すよ」
そんなに人魚が珍しい? と、クスクス笑う彼にはやっぱり警戒心が感じられなくて、わたしの方が彼が人魚だということに不安を感じるくらいだ。



