――どれくらい時間がたったんだろう。

 きっと、そんなには経っていないんだろうけれど、随分時間が過ぎたように感じる。

 けれど、このまま帰るのも名残惜しい。

 それに、今帰ったらなんだかもう二度と、この人に会えないような気がする。

 風がざわっと吹き上げ、濡れた髪が頬にくっつく。

 意を決して、いまだに水と戯れている人魚の彼に声をかけてみた。

「ねえ、あなたはこの学校の人?」

 ちゃぷんと水面から顔を出す彼は、相変わらずイケメンだ。

 涼しげな目元で、クールというか、なんだか知的な雰囲気がある。

 彼は私のことを見定めるかのようにじっと見て、「そうだよ」と、小さく呟いた。

 教えてくれたことにうれしくなって、また会えるんだと思うと心が躍る。

「じゃあ、何年生? クラスは?」

「……それは、ひみつ」

 調子に乗って聞いたからか、それとも信用するに値しないと感じたのか。

 彼は言いよどんだ後、きっぱりと冷たく一言そう言い切って、身軽な様で飛び込み台の上へと飛び乗った。

 少しショックだけど、よく考えれば当たり前のことだ。

 彼は人魚で、わたしは平凡な、ただの普通の人間だ。

 偶然、たまたま出会っただけで、きっと彼と話すのはこれで最後なのだろう。

 ひみつは誰にも話さない。話せない。

 だって、わたしは彼のことをなにも知らないから。