ここは、レーゲンボーゲン王国。

 王都ノイエ・ミルヒシュトラーゼの片隅にある小さな教会で結婚式が執り行われていた。
 教会のドアが重々しく開かれ、今日誓いを交わした二人が現れた。
 
 新郎は、この国で光芒の騎士と呼ばれる男、シュテルンヒェン・フォン・クヴェレだ。クヴェレは、臣下に下った王族が賜る名の一つだ。黄金の髪を輝かせ微笑む姿は、名が変わったとしても王者の貫禄は変わらない。スラリとした長身に騎士の儀状服が凛々さを引き立てる。

 対する新婦は、宵闇の騎士ベルンシュタイン・フォン・アイスベルクだ。真っ白いドレスに流れ落ちる青い髪は、まるで北国の山脈のように輝く。めったに見られない姿に、人々はため息をついた。彼女はこの国で初めての女騎士だ。女騎士のいなかったこの国に、女騎士団を作る礎を築いた人である。女には閉ざされていた騎士への道を作り上げた彼女へ、憧れの目を向ける少女は多い。

 教会の階段の元には、たくさんの人々が、二人を祝うために集まっている。

 大勢の騎士たち。青い扇を持ったもの。アイスベルクの騎馬隊らしき顔ぶれも見える。黒髪の凛々しい男は隊長らしい。いつもは勇猛な女騎馬隊も今日は着飾って参列している。

 あそこにいるのは、宮廷魔道士のザント・フォン・マルモア。紫紺のローブは大魔道士の証だ。その隣には、この国の王女マレーネ・フォン・ミルヒシュトラーゼ姫が金の長い髪をなびかせて佇んでいる。
 蒼白な顔をしたザントが、マレーネ姫に腕を取られて震えている。エスコート役に緊張しているようだ。

 ベルンシュタインは微笑んで、手に持ったブーケを投げた。
 そのブーケは、マレーネ姫の腕の中に落ちる。

「次は君たちの番だよ!」

 ベルンシュタインの声が響く。マレーネ姫はにっこり笑って、ザントは顔を真っ赤にした。



 緑の髪のクラウト・フォン・ヴルツェルが、新郎新婦に向かって大きく手を振れば、大きな花びらが舞い散った。それを合図にフラワーシャワーが始まる。

 正装に身を包んだ騎士たちが両脇に分かれ剣を抜いた。キンと打ち鳴らして、剣でアーケードを作っていく。その光輝く剣の中を、今日の主役たちが仲睦ましく歩いていく。

 教会の前に待つ馬車の前まで来て、二人は立ち止まった。
 そこには、真っ赤な髪の大きな男。太陽の騎士と呼ばれるフェルゼン・フォン・ヴルカーンが迎え撃つようにして立ちはだかっていたからだ。

「ベルン!!」

 太陽の騎士が新婦の名前を叫んだ。
 周囲は何事かと驚き、ざわめく。

 フェルゼンは教会の屋根に昇る太陽を指さした。
 ベルンシュタインは、小さく頷くと同じように太陽を指差す。


 宵闇の騎士の指先からこぼれるキラメキが、太陽を射て広がる。そのキラメキに、太陽の騎士の指先から熱風が放たれる。
 霧が広がり、太陽を囲むように丸い虹(ハロ)が生まれた。

「幸せにな!」

 太陽の騎士が声を張り上げる。
 お幸せに、と復唱する声が響いた。

「「もちろん!」」

 二人は弾けるように笑って手を振ると、馬車の中に消えていった。

  
 祝福の鐘が鳴り響く。
 レーゲンボーゲン王国の空には白虹が架かっていた。