「「フローエス ノイエス ヤール!!」」
 二人が声をそろえて、古い祝詞(のりと)で新年を言祝(ことほ)げば、同じ言葉を復唱する歓声が闘技場に鳴り響いた。
 
 クルクルと剣を回し、向かい合う二人は鞘に剣を納める。不思議なことに、鞘に吸い込まれていく先から、炎も氷も消えていた。

 観客席は赤や青の扇で沸き立っている。
 どうもご令嬢たちが、自身の応援する騎士の色に合わせて用意したらしい。
 中には二人ともという意味で、紫の扇を用意している者もいた。


「やっぱり、太陽の騎士様は雄々しくていらっしゃる」

 ため息交じりの感嘆が漏れる。

「あら、宵闇の騎士様は優雅でいらっしゃいますわ」
「なんといってもお二人が並び立つからこそ、美しいのです」
「確かにそれは言えますわね」
「太陽の騎士様の力強さが宵闇の騎士様の繊細さを引き立て」
「宵闇さまの儚さが、太陽さまの激しさを際立たせる……」

 ご令嬢たちのため息がコロッセオに満ちた。



 だが、観客席の誰も知らないのだ。


 宵闇の騎士こと、ベルンシュタイン・フォン・アイスベルクが、実は侯爵令嬢だということを。