僕はおもわず、膝をついてしまった。
 くしゃくしゃに、写真を丸めてしまった。
 なんども、地面に拳を打ち付ける。
 それから僕は、空を仰いでいた。
 冷たく鋭い雨が、僕の頬を打ち付けていく。
 その合い間を縫うように、温かい雫が頬を流れて、首筋を伝っていった。
 蓮がしゃがんで、雨に濡れながら僕の肩を掴んだ。
「螢?」
 僕は蓮のほうに振り向いて、瞼を少し下げて、頬を緩ませて、むりやり笑顔を取り繕った。
「大丈夫。ぜんぶ、雨だから」
 蓮はなにも言わず、小さく笑みを浮かべて、手を貸して起こしてくれた.
 火葬場に着けば、気休め程度にハンカチで濡れた部分を拭う。蓮は持ってきていないようで、貸してあげた。
 僕は頬を掻いて、口を切る。
「ごめん、ちょっとトイレ」
 そう言って、僕はその場を後にした。トイレを通り過ぎて、誰もいなさそうなところまで行って、僕は壁にもたれかかるように床へ腰掛ける。
 天井を見上げて、ため息を深く吐いてしまった。
 くしゃくしゃにしてしまった写真を広げて、もう一回だけ目を通していく。
 また、込み上げてきて、すうっと目の端から零れ落ちていく。
 唇を、丸めてしまう。
 どうして、今になってこんなこと言うんだろう。
 もっと早く教えてくれれば良かったのに。
 でもよくよく考えれば、僕になにかできるとは思えなかった。
 だから菫さんは心の奥底に、ずっと、しまってくれていたのかもしれない。
 それにしても、最初の手紙とは違って荒々しい字で、両手を使って一生懸命書いている姿が目に浮かんでくるようだった。
 たぶん、書いたのは僕が熱を出していたときだと思った。そうじゃなきゃ、わざわざ写真の裏に書いたりしない。
 あの日、彼女の心を追い込んでしまった。
 僕のやってきたことは、正しかったのかな。
 彼女を、苦しめていただけだったんじゃないだろうか。
 でも、そんなことはもう知りようがない。
 いろいろ考えてみたけど、一つだけ確かなことがあった。
 それは、菫さんにはあっちでも笑っていてほしいということ。
 だからひとまず、僕はこれからまで以上に写真を撮っていくことにした。
 彼女もきっと、楽しみにしてくれているだろうから。
 でもその前に、まずは菫さんの写真を全て、彼女の下に送るところからだった。
 僕は家に帰っては、すぐに写真を印刷した。