「ジャン……」

 その先の言葉は、本当はオレが言わなくてはいけない。そう思うけれど、唇が震えて声にならない。

「……お願い、キスを……」

 言いかけた唇を唇で覆う。驚いて息を飲む、その白い歯をなぞる。柔らかなベッドに優しく押し倒して、慄く瞳に口づける。

「オレもイザベラが」

 好きだと言おうとして、唇が凍る。

 オレも、だなんて言っていいのか。
 この心の綺麗なイザベラと、オレの心が同じだと、そんなの神様に笑われるんじゃないか。

 あの日の男爵夫人の言葉が胸の中で蘇る。オレは誰にでも言って来た。好きだと、ご主人様と同じように、オレも好きだと言ってきた。そんなオレの「好き」なんて、手垢で汚れているように思えたのだ。