もう何も知らなかったイザベラじゃない。キスを知ってしまった。それがもたらす快楽も。
 オレが教えた。そのことに薄汚く満足する。

「どうしましたか?」
「あのね、あの、犬のヌイグルミ、ね。ジャンっていうのよ」

 突然の言葉にポカンとする。

「言われるまで気が付かなかったの。人に犬の名前を付けるのが失礼だなんて思いもしなかったのよ。ごめんなさいね」

 今更になってそんなことを謝る。
 ああ、そうか。今夜が最期だからか。どうなっても、明日にはオレの居場所はここにはない。