「子供の頃の夢よ。叔父さまに憧れただけだわ」

 憧れだけで、難解な古い本を今の言葉に写しかえる仕事なんかできるだろうか。
 伯爵家の不幸さえなければ、この人は残りたった一年で念願の聖女になれたはずだった。
 あんな悪意だらけの薄汚い社交界に出ていく必要もなかったのに。

「他に方法は無いんですか。なんで貴女ばっかり犠牲にならないといけない」

 この人が夢を諦めなくて済む方法。
 夢のために守ってきたものを奪われ、夢も諦め、そしてセシリオが成人すれば守ってきた家から捨てられる。

 搾取されて搾取されて、最後には捨てられて、いくら身分がよくたって、こんなのは奴隷と変わらない。
 自由なんて、彼女にはもともと無いじゃないか。貴族なんていったって、ただ裕福な奴隷だ。

「犠牲じゃないわ、最善を選んでる」
「それは貴女の最善じゃない、選ばされてるだけだ」

 イザベラは小さく首をふる。