「ご主人様が嫌なら、それで良いと思います」
「ジャンは欲しかった? あの人みたいに私、たくさんの物はあげなかったわ。知らなかったのよ」
「良いんですよ、そんなこと」
「でも、それが貴方の権利ではないの? 受けとるべき物は受けとるべきよ」
イザベラは本当になにもわかっていないのだ。主人とは、与えたいものを与える。与えたくないものは与えなくて良いし、奴隷が欲しがる権利など無い。
はじめの金と、死なない程度の衣食住。保証されなければならないのは、それだけだ。だから、奴隷なのだ。
「はじめからご主人様は、欲しいものは買って良いと仰った。だから、欲しいものは買っています」
「私の服ばかりじゃない」
「そんなこと無いですよ」
不満げに曇らせる顔。可笑しくなって笑ってしまう。
「笑わないで、真面目な話よ」
これ以上怒られる前に話を変えよう。
「どうしてあの時ランプを倒したのですか?」
「人はね、自分に火の粉が飛ばない限り、他人を助けたりしないからよ」
何にも知らないようでいて、意外なことを知っている。
「……貴女は本当に聖女になりたかったんですね」
部屋をみれば解る。壁を埋めつくす本たち。珍しいカラクリは星の動きをよむのだという。