「リッツォ伯爵家の深窓のご令嬢、イザベラ様は聖女をお望みとの噂でしたのに、こんなことではいけませんわよ。もう少しの我慢なのでしょう? 欲情になど流されてはいけません。私が愁いを取って差し上げますわ」
ニィと赤い唇が不気味に微笑んだ。
「ねぇ、アルベルト。あなたも聖女様の行く手を阻んではなりませんよ。私と参りましょう……!!」
イザベラが不思議そうな顔で、オレと夫人を見ていた。何が起こったかわからない、そんな感じな。
「好きよ、アルベルト。あなたもそう言っていたじゃない。嘘だったの? 嘘じゃないでしょう? ねぇ、私にも本当だと言って! お金で引き裂かれない真実の場所へ行きましょう?」
『あなたも』だって? 『私にも』だって?
身も凍るようなセリフ。何度も嘘で好きだと言ってきたことが、今更ながらに突きつけられる。仕事だと割り切って、お金だと割り切った愛の言葉。こんなオレの唇から告げられる言葉を、聡明なイザベラが信じるわけはなかったのだ。