「『ジャン』といったっけ? コイツの評判はすこぶる悪い。かかわった女はみんな身を持ち崩すそうだ。君がそんなものに溺れる女だとは思っていなかったが、まぁ、今回だけは大目に見てあげるよ。叔父様の不幸もあるしね、君が血迷っても仕方なかったさ、でも、目を覚ませ」
イザベラの首筋に嚙つかんばかりの距離で、マルチェロが続ける。
「セシリオは知っているのかい? 君が性奴隷なんかを飼っているってことを。あの家はセシリオのものだろう? 君が食いつぶしていいものじゃない」
「わかっています」
イザベラが絞り出すように答えた。声が震えている。
「ああ、賢い君のことだ。当然わかっているだろう。そんな奴隷を連れて歩いて女主人を気取るより、きちんと結婚すべきだと」
マルチェロは笑った。
「君がその犬を捨て、僕にきちんと謝罪できたら、僕は君の過ちを赦してあげる」
オレはマルチェロの顔を押しやった。
「我が主人は過ちなどありません。失礼します」
イザベラの腰を抱いて、マルチェロに背を向けた。
「いい気になっているお前に教えてやるよ、『ジャン』それはリッツォ伯爵家で昔飼ってた犬の名前だ!」
背中から撃ち抜かれるような言葉に振り返りそうになる。グッと唇を噛みしめて、イザベラの背を押した。