「お連れしました。お嬢様」

 お嬢様? 
 
 老紳士は彼女に礼をした。彼女はゆっくりと頷いた。そして、オレに椅子を勧める。オレは言われた通りに彼女の前に座った。

「わたくしは、イザベラと申します。この屋敷の女主人です。今日からあなたの主人です。あなた、名前は?」

 色恋など知りませんなどという顔で、この町で一番上手い性奴隷を呼び寄せる色情狂に、オレは思わず舌なめずりをした。

 面白いじゃないか。

「ご主人様がお好きなようにお呼びください。奴隷とはそういうものです」

 従順な顔をして、作り声で定型文を答える。名前なんか初めからない。みんな勝手に呼ぶ。

 初恋の相手だとか、思ってはいけない相手だったり、死んでしまった旦那の名前。俺はいつだって、そういった名前で呼ばれてきた。