「デビュタントの日、マルチェロ様にエスコートをしていただいたの。私は嬉しかったのだけど、あの方にはご迷惑だったようで。パーティーなんて似合わない、来ない方がいいって」

 イザベラはギュッと唇を噛みしめた。

「本当のことよね。無様で似合わないって、気が付いていなかった真実を突きつけられて、自分が情けなくなっただけ」

 もしかしてそれが理由で社交界を避けているのだろうか。町へ行かなくなったのだろうか。デビュタントからだとしたら、ゆうに十年近くなる。
 彼女の花の時間は、そんな心ない言葉で奪われてしまったのか。

「そんなことありません。ご主人様は綺麗です」

 そう言えば、イザベラは困ったように笑った。

「嘘はいらない」

 本に目を落す。